部門紹介
東京国際映画祭の上映作品は、多彩な部門によって構成されています。
コンペティション部門では、本年、東京国際映画祭に応募された数多くの映画の中から厳選された15本の作品を上映します。15作品のうち9作品がワールド・プレミア(世界初上映)、1作品がインターナショナル・プレミア(製作国外初上映)、残り5作品はアジアン・プレミア(アジア初上映)となります。映画祭の最終日には授賞式が行われ、5名の審査委員によって選考された東京グランプリ、審査委員特別賞、最優秀監督賞、最優秀女優賞、最優秀男優賞、最優秀芸術貢献賞が授与されます。
昨年と同様、中国映画が3本入っていることが目を引きますが、それは今年の中国映画が昨年に引き続き、レベルの高い作品を生み出していることを反映しています。紹介される機会が少ない地域について言えば、スロバキアから生まれた鮮烈な監督デビュー作が選ばれました。また、3本の日本映画については、着実にキャリアを積み上げつつある才能ある監督たちの素晴らしい作品がそろいました。
世界が大きく揺れ動いているなか、映画監督たちがそれぞれどのように現代社会の問題に向き合っているか、そのためにどのような映画手法を駆使しているか、ぜひともスクリーンで発見していただければと思います。
プログラミング・ディレクター 市山尚三
2013年に創設された「アジアの未来」部門は、アジアの新人新鋭監督が競い合う第2コンペとして今年で11回目を迎えます(コロナ下の2020年はコンペ部門なし)。入選作10本すべてがワールド・プレミア(世界初上映)。鮮度は抜群です。今回は東アジアと中東が優勢でした。神話に範を仰いだものからつい先頃のコロナ禍まで、幅広いテーマに惹かれます。主観ショットや長回しなど斬新な映画話法にチャレンジする強つわ者ものにも出会えます。そして今年も女性の目を通して社会を描くものが目立ちます。そこから世界のリアルが見えてきます。(付記するなら、牛、山羊、鯨。動物入りのタイトルが3本もあります。)やがて世界の映画シーンを背負うに違いないアジアの新鋭の力作にいち早く触れてください。
あなたが世界で最初につぶやく権利を持っています。
シニア・プログラマー 石坂健治
本年の「ガラ・セレクション」部門は13作品を上映します。サンダンス映画祭脚本賞を受賞した『リアル・ペイン~心の旅~』、カンヌ映画祭で大きな話題を呼んだ2本の中華圏映画『ブラックドッグ』と『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』、トロント国際映画祭でエイミー・アダムスの型破りな演技が話題となった『ナイトビッチ』、サン・セバスティアン映画祭でワールド・プレミアを飾ったばかりの『エマニュエル(原題)』、『リュミエール2(仮題)』、ヘレン・ミレンが出演した感動作『ホワイトバード はじまりのワンダー 』、そして日本の俳優たちが国際的なプロジェクトに参加した『Spirit World(原題)』、『オラン・イカン』など、多彩なラインナップが実現しました。
また、日本映画についても、昨年の東京国際映画祭で最優秀監督賞を受賞した岸 善幸監督の『サンセット・サンライズ』をはじめ、娯楽性と作家性を兼ね備えた4作品が上映されます。世界の話題作をいち早くご覧ください。
プログラミング・ディレクター 市山尚三
本プログラムはケルン(ドイツ)から香港、テヘランから近未来的日本に至るまで、女性の複雑な諸相を描いた女性監督による多彩な作品を特集します。女性のアイデンティティやたくましさ、変容などこれまで語られてこなかった側面に光をあて、世界中の女性の多様性と強さを称える作品の特集は、女性の声を増幅し、映画における女性のあり方にとって重要な機会となるでしょう。長い間、映画は男性の視点によって形作られ、人類の歴史の全体像を見過すことが多くありました。しかし、デジタル技術の進歩によって、映画制作はより共生的になり、女性の作り手が急増しています。今年度のプログラムは、このような革新的な監督、脚本家、撮影監督に焦点を当て、彼女たちの貢献を称え、正当な評価を確立させるものです。
シニア・プログラマー アンドリヤナ・ツヴェトコビッチ
「ワールド・フォーカス」部門は、現在の世界の映画の潮流を知ることのできる作品を紹介する部門です。今年はベルリン映画祭金熊賞の『ダホメ』をはじめ、今、世界が直面している様々な問題を扱ったドキュメンタリーが多く選出されました。また、スペインやラテンアメリカの秀作を紹介してきた「ラテンビート映画祭」との共催による6作品も上映します。なかでも、ヴェネチア映画祭金獅子賞を受賞した『ザ・ルーム・ネクスト・ドア(原題)』、サン・セバスティアン映画祭金の貝殻賞を受賞した『孤独の午後』がこの部門で上映されることになり、秋のヨーロッパの主要映画祭の最高賞受賞作品が顔をそろえる豪華なラインナップとなりました。
それぞれの作品から現代の世界の様々な側面が見えてくることは間違いありません。また、まだ日本での劇場公開が決まっていない映画も多いため、この部門での上映がきっかけとなり、日本での公開が実現することを期待したいと思います。
プログラミング・ディレクター 市山尚三
この部門では、10代の方々にぜひとも観ていただきたい作品を上映してきましたが、今年もまた、10代の方々はもとより、一般の映画ファンの方々も必見の強力な作品が揃いました。
青少年向きのすぐれた作品を紹介することで定評のあるベルリン映画祭ジェネレーション部門で上映された作品の中から、中国の高校生たちを鮮烈に描いた『スターターピストル』、カナダの人里離れたロッジを舞台にひとりの少年の成長を独特のスタイルで描いた『フー・バイ・ファイヤー』の2作品を上映します。また、その作家性が注目を集めているスイスの俊英ラモン・チュルヒャーが、一見平穏に暮らしている家族の闇を描いた最新作『煙突の中の雀』を上映します。
プログラミング・ディレクター 市山尚三
「Nippon Cinema Now」は日本映画の新作を上映する部門です。選考にあたっては、「海外に紹介されるべき日本映画」という観点を重視しました。選ばれた7本の作品は、劇映画あり、ドキュメンタリーあり、国際共同製作作品あり、というバラエティに富んだラインナップで、既存の映画製作の手法にとらわれずに作られた鮮烈な作品が今年もそろいました。
特に、2021年から開催された短編コンペティション「Amazon Prime Videoテイクワン賞」のふたりの受賞者たちの新作がそろって上映されることにご注目ください。今後の日本映画を担うであろう才能ある監督たちが作り出したこれらの作品が、今後様々な国際映画祭に展開されることを期待したいと思います。
プログラミング・ディレクター 市山尚三
アニメーション部門は、最新の注目作を上映する「ビジョンの交差点」で海外5作品、国内7作品の合計12作品を上映します。海外5作品は特定の地域に偏らないバラエティあふれるラインナップで、国内作品と併せ立体アニメーション、手描き作画、3DCGといった様々な表現スタイルを通じて、アニメーションの可能性を体感することができます。また今回はインディペンデントとメジャーの境界を越境する国内3作品もピックアップし、国内の新たな潮流にも注目します。レトロスペクティブは、今年放送50周年を迎え、日本のアニメ史に大きな影響を与えた『宇宙戦艦ヤマト』を取り上げ、1977年公開の大ヒット作・劇場版を上映します。
プログラミング・アドバイザー 藤津亮太
巨匠・増村保造監督の生誕100周年を記念し、戦争が人々の心に残した傷跡を強烈な映像で描いた3本の傑作『陸軍中野学校 4Kデジタル修復版』、『赤い天使 4Kデジタル修復版』、『清作の妻』を上映します。また、名優・高倉健の没後10年にあたって、東映やくざ映画の一時代を作ったシリーズのそれぞれ第1作である『日本侠客伝』と『網走番外地』を、そして深作欣二監督のアクション演出が冴えわたる傑作『狼と豚と人間』を上映します。
また、昨年特集を行った山本薩夫監督の名作『あゝ野麦峠 4Kデジタルリマスター版』を、そして、製作70周年を記念して修復され、今年のベルリン映画祭で大きな話題となった『ゴジラ 4Kデジタルリマスター版』を上映します。
プログラミング・ディレクター 市山尚三
「TIFFシリーズ」は、ここ最近、テレビ放映やインターネット配信を前提としたシリーズものが数多く作られるようになり、その中には劇場用映画に勝るとも劣らないクオリティを有するものがある、という状況を踏まえ、すぐれたシリーズものを紹介する部門です。
今年は、ヴェネチア映画祭でワールド・プレミアを飾った2本のシリーズ『新年』と『ディスクレーマー 夏の沈黙』を上映します。2022年、『理想郷』で東京国際映画祭グランプリを受賞したスペインのドリゴ・ソロゴイェン、そしてメキシコの名匠アルフォンソ・キュアロンのまさに映画的な作品をスクリーンでお楽しみください。
また、窪塚洋介と亀梨和也の競演が話題のシリーズ『外道の歌』の最初の2エピソードを完成後最速で上映します。さらに特別映として、カンヌ映画祭で大きな話題を巻き起こしたジャン=リュック・ゴダールの真の遺作『Scénarios & Exposé du film annonce du film“Scénario”』をトーク付きで上映します。
プログラミング・ディレクター 市山尚三
市山尚三(いちやま しょうぞう)
1963年生まれ。松竹、オフィス北野をベースに主に海外の映画作家の作品をプロデュースする。主な作品にホウ・シャオシェン監督の『フラワーズ・オブ・シャンハイ』(1998)、カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞したサミラ・マフマルバフ監督 の『ブラックボード』(2000)、カンヌ国際映画祭脚本賞を受賞したジャ・ジャンクー監督の『罪の手ざわり』(2013)等があ る。また1992年から1999年まで東京国際映画祭の作品選定を担当。2000年に映画祭「東京フィルメックス」を立ち上げ、ディレクターを務めた。2013年より東京藝術大学大学院映像研究科の客員教授。2019年、川喜多賞受賞。 2021年、東京国際映画祭プログラミング・ディレクターに就任。
石坂健治(いしざか けんじ)
1960年生まれ。早稲田大学大学院で映画学を専攻し、アジア映画、ドキュメンタリー映画に関する批評活動を開始。1990年より2007年まで国際交流基金専門員としてアジア中東映画祭シリーズを企画運営。2007年の第20回TIFFよりアジア部門のプログラミング・ディレクターに就任。 2020年より現職。日本映画大学教授・映画学部長。共著書に『ドキュメンタリーの海へ』(現代書館)など。(米国ミシガン大学招聘教授として渡米中のため本年度は作品選定のみ担当)
藤津亮太(ふじつ りょうた)
アニメ評論家。1968年、静岡県生まれ。新聞記者、週刊誌編集を経て、2000年よりアニメ関係の執筆を始める。主な著書に『増補改訂版 「アニメ評論家」宣言 』(ちくま文庫)、『アニメの輪郭』(青土社)、『アニメと戦争』(日本評論社)などがある。東京工芸大学非常勤講師。
アンドリヤナ・ツヴェトコビッチ
初代駐日マケドニア大使で、2022年にはWIN Inspiring Women Worldwide Awardを受賞。日本大学で映画研究の博士号を取得、欧州大学で名誉博士号を授与され、京都大学では客員教授を務めた。映画監督としては映文連アワードの部門優秀賞を受賞。その他、世界経済フォーラムや国連気候変動会議で講演を行う。東京国際映画祭では2023年に「SDGs in Motion トーク」のプログラム・キュレーター、2021年にはAmazon Prime Video テイクワン賞の審査委員を務めた。
アンドリヤナ・ツヴェトコビッチ シニア・プログラマー コメント
長年にわたり、スクリーンの表現は主に男性の視点で描かれるものが多く、より幅広い鑑賞体験というものが欠けていました。しかし、デジタル技術の進歩により、映画製作はより身近なものとなり、女性監督、脚本家、主人公が大幅に増えてきています。今回の東京国際映画祭のこの部門は、このような新しい声に焦点を当て、彼女たちの多様なストーリーと映画への貢献を称えるものとなります。
幅広い知見・人脈と多様な価値観を有する外部専門家の協力を頂き、上映作品を選定しました。
安藤紘平
(あんどう こうへい)
早稲田大学名誉教授
金原由佳
(きんばら ゆか)
映画ジャーナリスト
関口裕子
(せきぐち ゆうこ)
映画ジャーナリスト