11/4(月)第37回東京国際映画祭にて、ディズニープラスで独占配信(11/15(金)~)される『クリスマスはすぐそこに』の特別上映が行われました。
作品の上映後、TIFFシリーズ部門で上映されるApple TV+『ディスクレーマー 夏の沈黙』のために来日中のアルフォンソ・キュアロン監督が登壇、エグゼクティブ・プロデューサーを務めた『クリスマスはすぐそこに』の制作について、Apple TV+『ディスクレーマー 夏の沈黙』について、第37回TIFFで上映中の作品について、さらに好きな日本映画について、語ったトークショーが行われました。
トークショーは市山尚三プログラミング・ディレクターが司会を務め、『クリスマスはすぐそこに』が無料上映となった経緯が説明された後、キュアロン監督が舞台へと上がりました。
市山PDから、『クリスマスはすぐそこに』を含めた短編の連作をプロデュースしていることについて訊かれたキュアロン監督は、「世界各地の年末のお祝い事を短編映画にするシリーズ企画で、はっきり言って自分勝手な要望もあり(笑)、組んでみたい監督と仕事をしています。」と製作の動機を語りました。
2022年のアリーチェ・ロルヴァケル監督『無垢の瞳』、2023年のイアン・ソフトリー監督『シェパード』と続く、今年の監督は『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』、『グリーン・ナイト』のデヴィッド・ロウリーが務めます。
内容はキュアロン自ら解説、「ロックフェラーセンターに置かれる大きなクリスマス・ツリーの中に、フクロウがいたという、実際にあった話に着想を得ています。私はそこからストーリーを膨らませて、ジャック・ソーンと脚本の第1項を書いて、それをロウリー監督に仕上げてもらったという経緯になります。」
デヴィッド・ロウリー監督にアニメーション制作の経験はあったかを尋ねられると、
「ロウリー監督はアニメーションを手掛けることが初めてで、かなりエキサイティングなことだったようです。最初はストップモーションで制作しようという案も出たのですが、時間的にも技術的にも難しいということで、3Dアニメ、デジタルアニメーションになりました。
ストップモーションではありませんが、手作り感を出し、まるでダンボールを後から足したような手法になっております。」と個性的なアニメを生み出した経緯を語りました。
「また、もともと私が実写で短編映画を撮るということ計画していたのですが、ディズニープラスとの話しの中で、アニメにしようと打診した際に快諾いただいて制作に至りました。
今回の『クリスマスはすぐそこに』で取った表現の方法は、ロウリー監督が10代の頃に、自身で段ボール等を使ってセットを組み立てて、撮影をしていたということで、その感情を再び実現したい、ということでこのようになったのです。」
ジョン・C・ライリーを起用したことについては、
「これもロウリー監督のアイデアで、ナレーター的な、歌で随所に登場するストリートミュージシャンを登場させたい、ということで、ロウリー監督からアプローチして実現しました。ジョン・C・ライリーが劇中の楽曲も手掛けているのですよ。」
ここからTIFFシリーズで上映される、Apple TV+『ディスクレーマー 夏の沈黙』について詳しくお話しいただきました。
「この作品の原作者(ルネ・ナイト)が、実は何年も前、もちろん出版の前になるのですが、構想を聞かせてくれました。それを聞いて、実際に読んで頭に浮かんだのは、いわゆる既存の映画のフォーマットで語ることが出来る物語ではないなと思いました。
どのようにアプローチするかは、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの「ベルリン・アレクサンダー広場」、イングマール・ベルイマンの「ファニーとアレクサンデル」、そしてデヴィッド・リンチの「ツイン・ピークス」、ブリュノ・デュモンの「プティ・カンカン」(この作品、大好きです(笑))、これらの作品と同様のフォーマットが最適ではないか、と思いました。」
配信中のため、詳しい内容についての解説は避けられましたが、TIFFシリーズでの、上映が全7話を2プログラムで1日で一挙に上映されることを伝えられると、
「トイレ休憩はありますよね?」と確認、あることを聞かされると「Good」と笑いました。
スクリーンで上映が行われることについては、
「上映が決まって、とても嬉しいです。スクリーンで観ていただけるということは理想の形です。
エマニュエル・ルベツキ、ブリュノ・デルボネルといった優れた撮影監督の技量がスクリーンでさらに際立つと思います。TIFFでの上映で観る機会のない方はぜひ、Apple TV+でご覧ください。」
⇒ Apple TV+『ディスクレーマー 夏の沈黙』 詳細ページ
市山PDからも、「作品には細かい伏線も多く張られていますので、1回目をスクリーンで、ディティールをApple TV+で楽しむのが良いかと思います。」と作品の楽しみ方の指南がありました。
キュアロン監督も「完璧に同意します。」と観客にすすめました。
キュアロン監督から、今年の第37回TIFFの上映作品でおすすめがあると紹介がありました。その作品はコンペティション部門に出品されている、カザフスタン映画『士官候補生』(アディルハン・イェルジャノフ監督)で、「フィンランドで開催の“ミッドナイト・サン・フィルム・フェスティバル”で、イェルジャノフ監督に直接あった際に、この作品を観て欲しいということでお送りいただきました。観てすぐに、イェルジャノフ監督に「これはすごい」と返事をしました。友人のフィルムメーカーに共有しても良いという許可をいただき、ギレルモ・デル・トロ監督、パベウ・パブリコフスキ監督にも共有したところ、この作品はすごい、という感想が返ってきました。より多くの方に、観て発見してもらいたい作品、監督です。」と力を込めると、
「非常にレアな作品です。一見ホラーなようで、非常によく、明晰に見ていて、成熟した手法で、自国に対する普遍的な懸念、家父長制について、監督の憂いというものが見事に反映されていて、でもそれでいて、説教臭い感じも、教訓めいた感じも出さない優れた映画です。」と解説しました。
さらにキュアロン監督が注目している若手監督を紹介しました。
「私は映画監督にとても敬意を払っていて、若い世代にとても有望な方がいることを知っています。
まず、フィンランドのユホ・クオスマネン監督。『コンパートメントNo.6』の監督ですね。
いわゆる巨匠と呼ばれる監督たちの作品を追うことも大切ですが、新しい世代、次世代のマスターとなっていくような監督の作品にも触れていないと、あっという間に歳を取ってしまいます。
あと、インドのチャイタニヤ・タームハネー監督も好きですね。彼の新作では、私がプロデューサーも兼ねています。『裁き』という作品を非常に気に入っていて、素晴らしい監督だと思うので、応援しています。彼に、「日本にいるよ」と送ったら、「世界で1番最高なところだね」って返信がありました。タームハネー監督も日本が好きだそうです。」
市山PDから、ワールド・フォーカス部門で特集しているアルトゥーロ・リプステイン監督について訊かれると、
「やはり私の世代にとっては本当にお手本となる作品を手掛けていて、自分が成長する中でたくさん作品を観てきました。映画に対する真摯な取り組み方で、表現を自在に言語的な意味でも扱うということで、彼特有のスタイルがありますよね。いつも監督が通していたのは、人間の在り方、屈しない、抵抗を続けるということであるということが記憶に残っています。
リプステイン監督は非常に若くして映画を撮り始めた方で、そして、ガブリエル・ガルシア=マルケスが「百年の孤独」を書く前に、Time to Dieの脚本を書き、その作品を監督されているんですよね。リプステイン監督が20歳そこそこで撮った作品ですよね。以前に私がリプステイン監督に「あなたの作品でこれが1番好きです」と伝えたのですが、それはお気に召さなかったようでした(笑)。西部劇で面白いので観られる機会が出来ると良いですね。」
と、“インディペンデント映画のゴッドファーザー”として知られるアルトゥーロ・リプステイン監督についても語りました。
トークはさらに続き、キュアロン監督が注目している日本映画、監督についてもお話しされました。
「実は巨匠と呼ばれる監督の作品を最近、観直しています。趣味としては、70年代のB級作品やヤクザ映画が面白いと市山さんとも話したのですが、やはり日本映画の古典となる、溝口健二、小津安二郎、黒澤 明といった巨匠の作品は、枯渇することのない泉のように、観るたびに学びがあり、何か湧き出るものがありますよね。実は息子にも黒澤 明監督作品を、観るようにとすすめているところです。」
最近の日本映画では、
「『万引き家族』、是枝監督の新作はいつも観るようにしています。あと、三池崇史監督の数年前に彼が撮った『藁の盾』という作品、犯罪者に懸賞金が懸けられて悪人だけじゃなくて一般の人まで、その犯罪者を追いかけるという、フリッツ・ラング監督の『M』に似ているコンセプトかなと思った作品です。他の三池監督の作品と趣が異なって素晴らしかったですね。」
最後に市山PDから新作の予定を尋ねられたキュアロン監督は
「次のプロジェクトはまだ何もないのです(笑)。私の好きな『ホーホケキョ となりの山田くん』にしましょうか?日本にいるので、その作品を思い出していました(笑)。
Apple TV+『ディスクレーマー 夏の沈黙』に長い時間を掛けたこともあるので、次の作品は90分以内の作品でもいいかなと思っています。」
と最新作からTIFFでの上映作品、さらに日本映画についてまで、サービスたっぷりに語ってくれたアルフォンソ・キュアロン監督は、トーク後のフォトセッションでも愛嬌を振りまき、トークショーは終了しました。