2024.10.30 [イベントレポート]
オリベイラ作品を手がけたプロデューサー、新作『英国人の手紙』撮影は「巨匠たちとの仕事を思い出す」
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『英国人の手紙』Q&Aの様子

東京・日比谷、銀座、有楽町エリアで開催されている第37回東京国際映画祭のコンペティション部門作品『英国人の手紙』のQ&Aが10月29日、丸の内TOEIで行われ、セルジオ・グラシアーノ監督、主演俳優のジョアン・ペドロ・バス、プロデューサーのパウロ・ブランコが登壇した。

詩人で小説家のルイ・ドゥアルテ・デ・カルバーリョの著作を、巨匠マノエル・ド・オリべイラの作品を手がけたパウロ・ブランコがプロデュース、アンゴラ映画を監督した実績のあるセルジオ・グラシアーノがメガホンをとった本作。カルバーリョは、父がアフリカ南部のナミブ砂漠に残した「英国人の手紙」と呼ばれる文書が1923年に起きた事件の謎を解明する鍵になることを知り、その文書を探すことに。その探索の過程を通して、ポルトガルの植民地だったアンゴラを舞台とする、19世紀末から20世紀初頭にかけての壮大な物語が描かれる。

ステージに立ったプロデューサーのブランコは「これは僕にとっても特別なプロジェクト。実は原作者のルイ・ドゥアルテ・デ・カルバーリョとは非常に親交が深くて。彼は面白い人物ですし、作家としても優れた人でもあります。10年ほどかかって、ようやく実現にこぎつけたプロジェクトとなります」と感慨深い様子。原作者のカルバーリョについて「彼はポルトガルにおける偉大なる詩人であり、フィクション作家でもありました。また彼は作家以外にも、撮影監督という顔もあり。70年代にたくさんのドキュメンタリーを撮っていました。また、ドキュメンタリーだけでなく、フィクションの劇映画も撮ったという人です」とその経歴を紹介すると、「彼は真のコスモポリタンとして生きてきた人。ナミビアだけでなく、サンパウロなど、さまざまな都市を渡り歩いているような人でした。フィクション作品を通して、アンゴラだったり、アンゴラの歴史を紐解くような作家でした。国の歴史をストーリーに仕立てるその筆致がすごかったわけです。今日の作品を観ていただいてもお分かりだと思いますが、アンゴラの歴史を、ルアンダなどの都市部から語るのではなく、遠く離れた土地から、たとえば遊牧民などの視点から語る。そういう語り口がすばらしい作家でした」と説明する。

一方、グラシアーノ監督にとっても本作は思い入れの強い作品だという。「わたし自身もルアンダに住んでいたということもあり、真のアンゴラ人としてこの作品を撮りたいと思っていました。アンゴラの風景を撮るにあたって、その信憑性であったり、精魂を込めて撮ること、感情や魂を込めて撮ることを意識しました。何よりもルイ・ドゥアルテで、砂漠の話なので。その風景を単に撮るのではなく、砂漠から感じ取れるものを捉えたつもりです」と語ると、「これはフィクションの物語ではあるのですが、元となった「英国人の手紙」というのは三部作で。第1部は普通の、いわゆるフィクションの物語仕立て、第2部と第3部はルイ・ドゥアルテの詩が中心となっている。ですから脚本をフィクションに仕立て、ルイ・ドゥアルテの詩に描かれた事実にも基づいているので、この映画はリアリティとのミックスだと言えます」と語る。

そこに「僕から付け加えるならば、1975年にアンゴラが独立を勝ち取ったということがあります」と語ったブランコ。「それまでアンゴラはポルトガル領だったんですが、それまでにアンゴラに住んでいたおよそ60~70万人のポルトガル人が国を出ていったんです。だから自分たちがかつて住んでいたアンゴラに郷愁の念、ノスタルジーがありました。そうしたことをこの映画で描いているんです。そしてもうひとつ大きな焦点となっているのは、遊牧民たちの生活です。かれこれ何十年かにわたって内紛が繰り広げられていたんですが、そうした中でも遊牧民たちは従来からの生活を続けていて。ルイ・ドゥアルテさん自身も砂漠での生活に魅入られていたわけです。それも注目ポイントでした」。

本作は砂漠をとらえた映像が非常に美しく描き出されている。が、そんな撮影についてジョアンは「おもしろかったのが、アンゴラの役者との共演というのはポルトガルでは珍しいことなんです。アンゴラの方たちと一緒に映画をつくるという体験はおもしろかった。ちなみに言うと、映画に出てくる部族はみんな本物なんですよ」と付け加えた。

そして最後にブランコが「これは僕にとってもパーソナルな作品。自分が90年代に(オリべイラら)巨匠たちと撮った作品を思い出しました。それはとても自由な映画づくりで、プランもなく、撮影日数がどれくらいになるのか、行きつく先がどこになるのか分からないままに撮影を行いました。(撮影素材は)カメラにおさめていても、最終的に編集でカットして、本編におさまりきらないカットもたくさんあったんです。そういう意味で、今撮られている大半の映画とは違う撮り方をしました」とコメント。さらにグラシアーノ監督が「僕には3つの夢がありました。まずはプロデューサーのパウロと一緒に映画をつくること。ふたたびアンゴラを舞台にした映画を撮ること。そして日本に来ること。今回、すべてを叶えることができたのでお礼を言わせてください」と誇らしげな顔を見せた。

第37回東京国際映画祭は、11月6日まで開催。
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