10/31(木)アジアの未来部門『シマの唄』上映後に、ロヤ・サダト監督(右・監督/脚本)、モジュデー・ジャマルザダーさん(右から2番目・俳優)、ニルファル・クーカニさん(左から2番目・俳優)、アジズ・ディルダールさん(左・脚本/俳優)をお迎えし、Q&Aが行われました。
司会:松下由美(映画プレゼンター・多文化コミュニケーター・大学講師・通訳)(以下、松下):代表して、監督から一言お願いいたします。
ロヤ・サダト監督(以下、監督):皆様、本日はこの上映にお越しくださいましてありがとうございます。また、東京国際映画祭の皆様にも、このような機会をいただいたことに心から感謝申し上げます。そして、私のチームの面々、素晴らしい役者の人たち、そしてまた、共に脚本を担当してくださった方、皆さんにお礼を申し上げたいと思います。また、この場に来ることのできなかった数々の出演者も、今、私たちの心の中にいます。
そして、制作の中心になってくださったプロデューサーが客席に座っていますが、後ほど写真撮影の際には舞台に上がり、一緒に写真に写りたいと思います。
その他にも台湾から参加してくださった方々もいて、こうした様々な人たちに助けられてこの映画は完成しました。
この映画のテーマは、大変重いテーマであり、皆様の心も重くしたかもしれませんが、私たちにとっても同じです。なぜかと言うと、今日のアフガニスタンでは女性は全く何の権利も与えられていないからです。学校に行くことはおろか、公園に行くことさえできない、働くこともできない、自分たちの声は全くとりあげられることはないという、本当に人権が完全に否定されている状況にあるからです。
そして、歴史を見ると、アフガニスタンという国は、本当にさまざまな戦争を経てきました。それは今も続いています。
この映画は、もちろん音楽、友愛、そして愛情などの美しいことも扱っていますが、 今日のアフガニスタンは今もタリバンの制圧下にあり、タリバンが力を持ってすぐ、私たちは亡命しています。そのため、この映画はギリシャをロケ地として撮影されました。
松下:アフガニスタンを出て日本に住んでいる、そうした方も会場に来ていただています。モジュデーさん、何かお言葉があったらお願いいたします。
モジュデー・ジャマルザダー(以下、モジュデーさん):私の状況というものも、アフガニスタンを出なければならなかった他の皆さんの物語ととても似通っていると思います。私は最初の内戦が始まる前、つまりタリバンが制圧する直前にアフガニスタンを出たのですけれども、例えば日本のように、若い女性を受け入れてくれている世界の全ての国々にお礼を言いたいと思います。
そうした国々が若い女性、アフガニスタン人の若い女性に門戸を開いてくださったからこそ、そうした女性はそれぞれの場所で未来を紡ぐことができました。そこで勉強したり、仕事をしたり、 人権を守られて暮らすことができるのです。
自分の祖国を逃げ出さないといけないということは大変大きな不幸です。 そして、新しく、何も知らない土地に行き、自分の慣れ親しんだ大地、家、家族、友人、そういった人々やものを後にして、新しいところで全てを学び、 言語も文化も学んで、そこでなんとか生きていかないといけません。
私たちは、それでもアフガニスタン国内に今もいる何百万もの女性たちと比べるとずっと幸せです。なぜなら自由があるからです。
タリバンは最近、アフガニスタン国内の女性が互いと話すことさえ禁じるようになりました。
どれだけ基本的人権がないがしろにされているか、一目瞭然かと思います。
──Q:アフガニスタンでの女性というのはどのような状況なのでしょうか。また、シマ役のニルファル・クーカニさんの声はとても素敵だと思いました。
監督:2021年の8月にタリバンが国を乗っ取って以来、アフガニスタン国内の女性というのは、まるで牢獄に入れられているようなそんな日々を送っています。全く人権も、社会正義も無視され、 これはアパルトヘイトよりもっとひどい本当に危機的な状況にあります。
シマを演じたニルファル・クーカニさんの声ですが、彼女の声は素晴らしいですよね。
──Q:私は20年ほど前にアフガニスタン人女性のストーリーテラーに会ったことがあります。イタリアでのことでした。彼女は当時のアフガニスタンの軍政についてのドキュメンタリーを仕上げているという時でした。どれほど大変な状況か、それがどれだけ難しいことかということを彼女の話を聞く中で大変強く感じました。そこで出会ったアルカさんという姉妹のことも覚えています。それから20年が経ちましたが、難しい状況というのは少しも良くなっていません。いつか、アフガニスタンの女性が自分たちの話をすることができるようになるんでしょうか。
モジュデーさん:アルカさんにお会いになったということにとても驚きましたし、たいへん嬉しいです。実はこの映画を作る上で、彼女は演出家の1人として参加していました。だからセットにもいたんです。
アフガニスタンの女性が、いつの日か、今よりか、物語を楽に語ることができるようになるのか。これに関してですが、アフガニスタンの問題は国民に問題があるからではなく、政治に問題があるわけですよね。 国民、人々自体はとっても優しく、そして外から来た人を温かくもてなすような人々です。私自身はヨーロッパで生まれ育ったのですが、4年間アフガニスタンに住んでいました。そこで自分の作品を上映したりもしたんですが、その時にどれだけ人々にやさしくしてもらったか。本当に素晴らしい人々だと思いました。
しかし、ロシア、イギリス、タリバンといった人たちが長い歴史を通じてアフガニスタンをめちゃくちゃにしてきており、もう何世代にもわたって自分たちの物語を語ることが不可能な状態にしています。これからそれが変わるかどうか、私自身ははっきりわかりません。
アジズ・ディルダールさん:まず、こうして東京国際映画祭で『シマの唄』を上映していただけることについて、私は本当に幸せに思っております。それで、アルバさん、ロヤ、そして素晴らしい演技をしてくださった、色々な役者の皆さんに私からもお礼を言いたいと思います。
アフガニスタンの将来についてですけれども、50年前にアフガニスタンにおける内戦が始まり、そして、まだ、それは終わっていません。国内的にも色々な問題を抱えている他に、近隣諸国とも様々な衝突があって大変難しい状況です。
監督:中にはイランの方もおりますが、アフガニスタンのような国で映画を作る場合は、私たちは皆ペルシア語で意思疎通しています。通常、映画を作る時には作り手がスタジオを選びますけれども、私たちの場合はスタジオが私たちを選ぶんです。アルカさんも、それからアジズさんも言っていたことですけれども、映画を観たお客さんが幸せな気持ちになってニコニコしながら劇場を去っていけるようなものというものをが望まれているわけですが、例えば共和制のあったその時のことだけを考えて終わらせるのであれば、そういう映画が作れたかもしれません。
しかし、タリバンが国を乗っ取ったのは、私たちが撮影の準備をしている最中でした。タリバンというのは、皆様ご存じの通りテロ集団で、卑劣な暴力を行使してます。 そんな中で、私はそうした状況に目をつぶるということはできませんでした。ですので、今回の場合は、社会の状況が私たちを作ったということです。私は映画を作る上で、ただそれを芸術のためというだけではなくて、声を届けたいと思っています。
松下:最後になってしまったんですが、準備をしつつ、話題にも上がった美しい声を聞けていないので、シマ役のニルファル・クーカニさんから、声について、彼女ご自身の声なのかということと、国の外にいながら、どなたかから指導を受けてずっと音楽をご自身でされるのか、あるいはこの映画のために特訓をされて、あんな素晴らしい演奏をご披露してくださったのかだけお伺いしたいです。
ニルファル・クーカニさん:こうして皆さんと一緒にこの映画を観ることができて、とても幸せに思います。私は、音楽を勉強したことはないんです。私は今イランに住んでいるのですが、音楽の勉強をしていなかったので、この映画に出演することになって、ドバーブの楽器の特訓を受け、そして歌の特訓を受けました。