入江悠監督
東京・日比谷、銀座、有楽町エリアで開催されている第37回東京国際映画祭のNippon Cinema Now部門のプログラム「監督特集:入江悠」で10月31日、2016年の映画『
太陽』が丸の内ピカデリーで上映され、入江監督が本作に込めた思いを語った。
劇作家・演出家の前川知大率いる劇団「イキウメ」の同名舞台を、入江監督が神木隆之介、門脇麦を主演に迎えて映画化した本作。21世紀初頭、世界中に拡散したウイルスによる人口激減から、なんとか生き残った人類は、心身ともに進化しながらも太陽の光に弱くなり夜しか生きられなくなった新人類「ノスク」と、ノスクに管理されながら貧しく生きる旧人類「キュリオ」という2つの階層に分かれて生活していた。そんなある日、村でノスクの駐在員をキュリオの男が惨殺する事件が起こる……という物語だ。
映画上映後のQ&Aに登壇した入江監督は「今回の特集の選考には関わらなかったんですが、『太陽』を入れていただいてありがたい。くしくも(今回のプログラムの上映作品)『
あんのこと』も『太陽』もコロナに関係ある作品だったな」としみじみ。もともと劇団「イキウメ」の舞台に感動した入江監督が、『
SR サイタマノラッパー』シリーズで組んでいた遠藤日登思プロデューサーに映画化できないかと相談したのが始まりだったそうで、「僕がもともとSFが好きだったということと、自分がハリウッドのSF映画で育ったということで挑戦したいと思ったこと。そして社会が分断するということに興味があって、そのテーマが刺さったということもありました」と述懐。「もし許されるなら、死ぬ前にもう一回リメイクしたい」ほどに思い入れも強い作品だと明かした。
撮影は『万引き家族』や『怪物』を手がけた近藤龍人が担当。「夜のシーンの撮影が多かったんで、徹夜続きだったんですけど、近藤さんが粘るんですよ。ラストシーンの太陽が出てくるところも、近藤さんが撮影場所を車で探して見つけたところなんですが、近藤さんがなかなか帰ってこなかったということもありましたね」という入江監督。「徹夜続きで僕らは意識がもうろうとしていたんですけど、神木くんだけが元気で。この人、バケモノだなと思って撮りましたけど、若さで乗り越えたということはあるかもしれないですね」と笑いながらも、この映画をきっかけに「光」について意識するようになったと語る。
「自主映画から出発した者は、映画における光をないがしろにしがちなんですよ。カメラのアングルとか俳優の芝居に意識がいってしまって。でも日本で撮影する以上、四季があるわけで。そこで光をどう捕らえるかということ。はじめて近藤龍人さんと照明の藤井勇さんと組んで、光が重要だなと気付かせてもらった。俳優の美しさなど、その瞬間でしか撮れない映像というものもあるんだな、ということに気付いた」と語る。「はからずも『あんのこと』で組んだ浦田(秀穂)さんも光を大事にする方で。団地のカーテンを開けるわずかな光で主人公の息苦しさを表現したりして。これがプロの仕事かと思いましたね」と付け加えた。
本作のキャスティングについては「プロデューサーの遠藤さんと決めた気がします。もともと自主映画からスタートしているので、プロの俳優さんを知らなくて。だから俳優さんを推薦していただきました。神木さんが出てくれることになった時は「出てくれるの?」とビックリした記憶があります」と振り返った。
今回の特集上映のプログラムを通じて、「自覚したことなかったんですけど、確かに“閉塞(へいそく)感”に興味があるんだなと思いました。社会が個人を抑圧していくというのが怖くて。その恐怖心をひとりで抱えきれないから、それを映画にして皆さんにお裾分けしているのかもしれない。それはありがた迷惑かもしれないですが。でも『ビジランテ』などもそうですが、皆さんこういうのは怖くないですか? 嫌じゃないですか? と問いかけているところはある。それはコロナや震災という時が分かりやすいですが、わりと日常でもそう感じることがあって。自分の中でそういうテーマがあるなというのは最近分かりました」と語る。
そして最後に、2025年1月17日に公開予定の最新作『室町無頼』について語るひと幕も。「映画祭のオープニングで(東映の時代劇)『
十一人の賊軍』をやってましたが、『室町無頼』も東映はどうかしていると思うくらい大変でしたね。痛快娯楽時代劇なんですが、とにかく物量がすごくて。エキストラが延べ5000人という世界でした。コロナ禍で何度も撮影が中断したんですが、ようやくこれだけ人が集まっても大丈夫ということで撮れた映画でした」と振り返った。
第37回東京国際映画祭は、11月6日まで開催。
入江悠監督
東京・日比谷、銀座、有楽町エリアで開催されている第37回東京国際映画祭のNippon Cinema Now部門のプログラム「監督特集:入江悠」で10月31日、2016年の映画『
太陽』が丸の内ピカデリーで上映され、入江監督が本作に込めた思いを語った。
劇作家・演出家の前川知大率いる劇団「イキウメ」の同名舞台を、入江監督が神木隆之介、門脇麦を主演に迎えて映画化した本作。21世紀初頭、世界中に拡散したウイルスによる人口激減から、なんとか生き残った人類は、心身ともに進化しながらも太陽の光に弱くなり夜しか生きられなくなった新人類「ノスク」と、ノスクに管理されながら貧しく生きる旧人類「キュリオ」という2つの階層に分かれて生活していた。そんなある日、村でノスクの駐在員をキュリオの男が惨殺する事件が起こる……という物語だ。
映画上映後のQ&Aに登壇した入江監督は「今回の特集の選考には関わらなかったんですが、『太陽』を入れていただいてありがたい。くしくも(今回のプログラムの上映作品)『
あんのこと』も『太陽』もコロナに関係ある作品だったな」としみじみ。もともと劇団「イキウメ」の舞台に感動した入江監督が、『
SR サイタマノラッパー』シリーズで組んでいた遠藤日登思プロデューサーに映画化できないかと相談したのが始まりだったそうで、「僕がもともとSFが好きだったということと、自分がハリウッドのSF映画で育ったということで挑戦したいと思ったこと。そして社会が分断するということに興味があって、そのテーマが刺さったということもありました」と述懐。「もし許されるなら、死ぬ前にもう一回リメイクしたい」ほどに思い入れも強い作品だと明かした。
撮影は『万引き家族』や『怪物』を手がけた近藤龍人が担当。「夜のシーンの撮影が多かったんで、徹夜続きだったんですけど、近藤さんが粘るんですよ。ラストシーンの太陽が出てくるところも、近藤さんが撮影場所を車で探して見つけたところなんですが、近藤さんがなかなか帰ってこなかったということもありましたね」という入江監督。「徹夜続きで僕らは意識がもうろうとしていたんですけど、神木くんだけが元気で。この人、バケモノだなと思って撮りましたけど、若さで乗り越えたということはあるかもしれないですね」と笑いながらも、この映画をきっかけに「光」について意識するようになったと語る。
「自主映画から出発した者は、映画における光をないがしろにしがちなんですよ。カメラのアングルとか俳優の芝居に意識がいってしまって。でも日本で撮影する以上、四季があるわけで。そこで光をどう捕らえるかということ。はじめて近藤龍人さんと照明の藤井勇さんと組んで、光が重要だなと気付かせてもらった。俳優の美しさなど、その瞬間でしか撮れない映像というものもあるんだな、ということに気付いた」と語る。「はからずも『あんのこと』で組んだ浦田(秀穂)さんも光を大事にする方で。団地のカーテンを開けるわずかな光で主人公の息苦しさを表現したりして。これがプロの仕事かと思いましたね」と付け加えた。
本作のキャスティングについては「プロデューサーの遠藤さんと決めた気がします。もともと自主映画からスタートしているので、プロの俳優さんを知らなくて。だから俳優さんを推薦していただきました。神木さんが出てくれることになった時は「出てくれるの?」とビックリした記憶があります」と振り返った。
今回の特集上映のプログラムを通じて、「自覚したことなかったんですけど、確かに“閉塞(へいそく)感”に興味があるんだなと思いました。社会が個人を抑圧していくというのが怖くて。その恐怖心をひとりで抱えきれないから、それを映画にして皆さんにお裾分けしているのかもしれない。それはありがた迷惑かもしれないですが。でも『ビジランテ』などもそうですが、皆さんこういうのは怖くないですか? 嫌じゃないですか? と問いかけているところはある。それはコロナや震災という時が分かりやすいですが、わりと日常でもそう感じることがあって。自分の中でそういうテーマがあるなというのは最近分かりました」と語る。
そして最後に、2025年1月17日に公開予定の最新作『室町無頼』について語るひと幕も。「映画祭のオープニングで(東映の時代劇)『
十一人の賊軍』をやってましたが、『室町無頼』も東映はどうかしていると思うくらい大変でしたね。痛快娯楽時代劇なんですが、とにかく物量がすごくて。エキストラが延べ5000人という世界でした。コロナ禍で何度も撮影が中断したんですが、ようやくこれだけ人が集まっても大丈夫ということで撮れた映画でした」と振り返った。
第37回東京国際映画祭は、11月6日まで開催。