©2024 TIFF
第37回東京国際映画祭で「
日本アニメの新世代」と題したシンポジウムが11月1日、東京ミッドタウン日比谷のBASE Qで行われ、本映画祭アニメーション部門で上映された『
数分間のエールを』のぽぷりか監督、『
メイクアガール』の安田現象監督、『
クラユカバ』の塚原重義監督ら、各作品の若手監督たちが一堂に会した。モデレーターは、東京国際映画祭プログラミング・アドバイザーでアニメ評論家の藤津亮太氏が担当した。
近年、日本のアニメーション界では、短編映画やミュージックビデオを中心に活躍してきたインディペンデント系のクリエイターたちが相次いで長編映画の製作に取り組み始めている。本シンポジウムは、そんな新たな潮流を代表するクリエイターたちが集い、どんな思いで長編に挑んだかについて語りあう機会となった。藤津氏は「彼らのバックボーンはそれぞれですが、インディペンデントの作家としてスタートして、今年長編が劇場公開されたという共通点があります。僕としてはこういったキャリアで長編アニメーションを作る人は増えていくだろうと思う。2024年はその節目になる年ではないかと思い、このお三方に登壇していただくことにしました」と趣旨を説明する。
「バックボーンはそれぞれ」と藤津氏が指摘する通り、3人がアニメの道に進んだきっかけもそれぞれ異なっている。『クラユカバ』の塚原監督は、「小学校のときに家にあったビデオカメラで、特にストーリーもないクレイアニメみたいなものをつくった記憶があります。中学か高校の頃にパソコンを手に入れてからも、5秒とか10秒とかの、ちょっとした短い映像というのはつくり始めていたのですが、ちゃんとストーリーがある短編をつくり始めたのは大学生の頃。ちょうどインターネットでフラッシュアニメが流行っていたころで。学生の頃に、当時のFlashというアプリケーションを使って2~3カ月に1本と短編をつくっていたら、仕事をしませんかと声をかけていただいて。そこからぬるっと仕事を始めた」という。
一方、「自分はアニメ作家になるまではだいぶ回り道をしていました」と語るのは、『メイクアガール』の安田監督。「油絵作家を目指していた時期もあり、ラノベ作家を目指した時期もあり、ニートをしていた時期もあり……。ただ3DCGを覚えた先に、これまで培ったスキルを合わせて何かできないかなと思い、つくった作品がショートアニメで初めてYouTubeにアップした「メイクラブ」という作品でした。そして塚原さんと同じようにお声をかけていただくようになったり、「メイクラブ」をもとに『メイクアガール』という作品をご依頼いただいた。ここでつくった1本目の作品が、自分をアニメ作家街道に押し込んだものかなと思っております。短編の投稿をしたのが2020年。アニメ作家としての活動をスタートしたのも2020年。長編をやろうというお話をいただいたのも2020年。全部2020年のことでした」。
『数分間のエールを』のぽぷりか監督の場合は、大学時代に知り合ったおはじき(副監督)、まごつき(アートディレクター/キャラクターデザイン)と活動を共にしている。「映像をつくってみたいなと漠然と思ったのが、美大の受験の時でした。それで初めてつくった映像が、おはじきとふたりでつくったアニメーション作品なので。最初からふたりとやっているというのが近いかもしれないです」と成り立ちを説明したぽぷりかは、「自分が高校生の時にニコニコ動画というサービスが、おもしろい動画サイトだということで話題になっていたんです。それこそ初音ミクとかが出てきた最初の時代で。高校生時代の、美大を目指す直前まで、自分が何になるか分からない、自分はこの先どう生きていけばいいのか分からないなと思って。そのときにニコニコ動画で観たミュージックビデオに心動かされて。こういうのをつくってみたいなと思ったのが最初のきっかけですね」。
くしくも制作に使用されるアプリの進化によって個人レベルでもアニメーションをつくりやすくなった。さらにYouTubeやニコニコ動画といった発表の場が登場したことによる環境面の変化により、インディペンデントのアニメ作家が活動しやすい土壌が生み出された。そこに短編アニメ映像を投稿し、それが注目されることで長編作品へとステップアップを果たす。だが長尺の作品をつくるにあたっては、外部スタッフとの連携を図り、制作チームの規模を拡大する必要性が出てくる。
安田監督が「自分の場合はかなり少人数でつくることができた。かつ集まったメンバーも、もともと自分の作品を好いて来てくれる方たちなので、自分のやりたいことや、やりたい表現を大切にしてくれた。その上で、自分ひとりで全部できるわけではなく、取捨選択をしていかないといけない。そこで彼らの裁量に任せてお願いするということもかなりありました。全部で950カットくらいの作品ですが、わりと高いクオリティでつくれたんじゃないか」と自負をのぞかせる。
さらに塚原監督が「僕も自分で売り込みをして、自分で声を入れて、撮影も半分以上が自分で手を入れて。編集も自分でやっているので、そこを押さえている限り、今までと大まかに違ったことをしている気がしない。ただ安田さんと同じように、チームがこなれてくると、この人はこれが得意だから、ということで任せられるようになる。そうしたら今度は別のことに頭を使えるようになって、非常に楽になりました」と続けると、「本当にそうなんですよ!」と同調した安田監督。「制作の時も自分以外の人がいるということで環境は変わりました。今は長編もそうですけど、いろんな体制で制作をしていますが、ひとりでつくるときには使わなかった脳みその筋肉が間違いなく増えていて。それをすることでよりたくさんの作品をつくることができるようになった。今はより幸せになったと胸を張って言えます」としみじみ付け加えた。
彼らのようにインディペンデントのアニメ作家が、長編アニメにチャレンジするという流れは今後も広がるのだろうか。「結論としては増えると思います」という安田監督は、「SNSでショートアニメが投稿されるようになった2020年以降、長編をつくりたいと願うクリエイターと、自分でプロデュースした長編を世に出したいというプロデューサーが出会う場所としてSNSが機能し始めていると思っています」と近年の風潮について指摘。
藤津氏も「長編をつくるという、ひとつのゴールが見えたことで、その間の中編をつくる人がおそらく増えてくる。それはたぶん配信プラットフォームや、あるいは無料で見せるYouTubeなどの形で提供されるようになる。テレビや配信などのシリーズ作品と、映画との間に、厚い中間層が発生するというのがプラスの考え方としてあるかなと思っていて。僕としてはそっちの方にいってほしいかなと思っています」と今後の潮流について語りあうひと幕もあった。
第37回東京国際映画祭は、11月6日まで開催。
©2024 TIFF
第37回東京国際映画祭で「
日本アニメの新世代」と題したシンポジウムが11月1日、東京ミッドタウン日比谷のBASE Qで行われ、本映画祭アニメーション部門で上映された『
数分間のエールを』のぽぷりか監督、『
メイクアガール』の安田現象監督、『
クラユカバ』の塚原重義監督ら、各作品の若手監督たちが一堂に会した。モデレーターは、東京国際映画祭プログラミング・アドバイザーでアニメ評論家の藤津亮太氏が担当した。
近年、日本のアニメーション界では、短編映画やミュージックビデオを中心に活躍してきたインディペンデント系のクリエイターたちが相次いで長編映画の製作に取り組み始めている。本シンポジウムは、そんな新たな潮流を代表するクリエイターたちが集い、どんな思いで長編に挑んだかについて語りあう機会となった。藤津氏は「彼らのバックボーンはそれぞれですが、インディペンデントの作家としてスタートして、今年長編が劇場公開されたという共通点があります。僕としてはこういったキャリアで長編アニメーションを作る人は増えていくだろうと思う。2024年はその節目になる年ではないかと思い、このお三方に登壇していただくことにしました」と趣旨を説明する。
「バックボーンはそれぞれ」と藤津氏が指摘する通り、3人がアニメの道に進んだきっかけもそれぞれ異なっている。『クラユカバ』の塚原監督は、「小学校のときに家にあったビデオカメラで、特にストーリーもないクレイアニメみたいなものをつくった記憶があります。中学か高校の頃にパソコンを手に入れてからも、5秒とか10秒とかの、ちょっとした短い映像というのはつくり始めていたのですが、ちゃんとストーリーがある短編をつくり始めたのは大学生の頃。ちょうどインターネットでフラッシュアニメが流行っていたころで。学生の頃に、当時のFlashというアプリケーションを使って2~3カ月に1本と短編をつくっていたら、仕事をしませんかと声をかけていただいて。そこからぬるっと仕事を始めた」という。
一方、「自分はアニメ作家になるまではだいぶ回り道をしていました」と語るのは、『メイクアガール』の安田監督。「油絵作家を目指していた時期もあり、ラノベ作家を目指した時期もあり、ニートをしていた時期もあり……。ただ3DCGを覚えた先に、これまで培ったスキルを合わせて何かできないかなと思い、つくった作品がショートアニメで初めてYouTubeにアップした「メイクラブ」という作品でした。そして塚原さんと同じようにお声をかけていただくようになったり、「メイクラブ」をもとに『メイクアガール』という作品をご依頼いただいた。ここでつくった1本目の作品が、自分をアニメ作家街道に押し込んだものかなと思っております。短編の投稿をしたのが2020年。アニメ作家としての活動をスタートしたのも2020年。長編をやろうというお話をいただいたのも2020年。全部2020年のことでした」。
『数分間のエールを』のぽぷりか監督の場合は、大学時代に知り合ったおはじき(副監督)、まごつき(アートディレクター/キャラクターデザイン)と活動を共にしている。「映像をつくってみたいなと漠然と思ったのが、美大の受験の時でした。それで初めてつくった映像が、おはじきとふたりでつくったアニメーション作品なので。最初からふたりとやっているというのが近いかもしれないです」と成り立ちを説明したぽぷりかは、「自分が高校生の時にニコニコ動画というサービスが、おもしろい動画サイトだということで話題になっていたんです。それこそ初音ミクとかが出てきた最初の時代で。高校生時代の、美大を目指す直前まで、自分が何になるか分からない、自分はこの先どう生きていけばいいのか分からないなと思って。そのときにニコニコ動画で観たミュージックビデオに心動かされて。こういうのをつくってみたいなと思ったのが最初のきっかけですね」。
くしくも制作に使用されるアプリの進化によって個人レベルでもアニメーションをつくりやすくなった。さらにYouTubeやニコニコ動画といった発表の場が登場したことによる環境面の変化により、インディペンデントのアニメ作家が活動しやすい土壌が生み出された。そこに短編アニメ映像を投稿し、それが注目されることで長編作品へとステップアップを果たす。だが長尺の作品をつくるにあたっては、外部スタッフとの連携を図り、制作チームの規模を拡大する必要性が出てくる。
安田監督が「自分の場合はかなり少人数でつくることができた。かつ集まったメンバーも、もともと自分の作品を好いて来てくれる方たちなので、自分のやりたいことや、やりたい表現を大切にしてくれた。その上で、自分ひとりで全部できるわけではなく、取捨選択をしていかないといけない。そこで彼らの裁量に任せてお願いするということもかなりありました。全部で950カットくらいの作品ですが、わりと高いクオリティでつくれたんじゃないか」と自負をのぞかせる。
さらに塚原監督が「僕も自分で売り込みをして、自分で声を入れて、撮影も半分以上が自分で手を入れて。編集も自分でやっているので、そこを押さえている限り、今までと大まかに違ったことをしている気がしない。ただ安田さんと同じように、チームがこなれてくると、この人はこれが得意だから、ということで任せられるようになる。そうしたら今度は別のことに頭を使えるようになって、非常に楽になりました」と続けると、「本当にそうなんですよ!」と同調した安田監督。「制作の時も自分以外の人がいるということで環境は変わりました。今は長編もそうですけど、いろんな体制で制作をしていますが、ひとりでつくるときには使わなかった脳みその筋肉が間違いなく増えていて。それをすることでよりたくさんの作品をつくることができるようになった。今はより幸せになったと胸を張って言えます」としみじみ付け加えた。
彼らのようにインディペンデントのアニメ作家が、長編アニメにチャレンジするという流れは今後も広がるのだろうか。「結論としては増えると思います」という安田監督は、「SNSでショートアニメが投稿されるようになった2020年以降、長編をつくりたいと願うクリエイターと、自分でプロデュースした長編を世に出したいというプロデューサーが出会う場所としてSNSが機能し始めていると思っています」と近年の風潮について指摘。
藤津氏も「長編をつくるという、ひとつのゴールが見えたことで、その間の中編をつくる人がおそらく増えてくる。それはたぶん配信プラットフォームや、あるいは無料で見せるYouTubeなどの形で提供されるようになる。テレビや配信などのシリーズ作品と、映画との間に、厚い中間層が発生するというのがプラスの考え方としてあるかなと思っていて。僕としてはそっちの方にいってほしいかなと思っています」と今後の潮流について語りあうひと幕もあった。
第37回東京国際映画祭は、11月6日まで開催。