10/30(水)ワールド・フォーカス『ラスト・ダンス』上映後にアンセルム・チャン監督、ダヨ・ウォンさん(俳優)、マイケル・ホイさん(俳優)、ミシェール・ワイさん(俳優)をお迎えし、Q&Aが行われました。
司会:新谷里映さん(以下、新谷さん):ゲストの皆様に一言ずつご挨拶をいただきたいと思います。
アンセルム・チャン監督(以下、監督):皆さん、こんばんは。私はアンセルム・チャンと申します。この映画の監督でございます。ありがとうございます。
ダヨ・ウォンさん:(以下、ダヨさん):(日本語で)『ラスト・ダンス』おくりびとです。初めまして、よろしくお願いします。
マイケル・ホイ(以下、マイケルさん):皆さん、こんばんは。映画を御覧いただいたばかりですが、どうですか。落ち着きましたか?いや、落ち着いてませんよ、思うかもしれませんが(笑)そうですよね、この映画観た後にじっくり考える場面がいろいろあると思います。一旦落ち着いて、これから皆さん、いろんなお話をぜひお聞きください。
ミシェール・ワイさん(以下、ミシェールさん):皆さん、こんばんは。ミシェールです。わざわざ映画を観に来てくださって、本当にありがとうございます。この映画を観て気に入ってくださると大変嬉しいです。
新谷さん:ありがとうございます。最初に私から1つだけ監督にお伺いします。
とても楽しく拝見したのはもちろん、香港の葬儀や文化について知ることができ、学びのある映画でした。監督は、今回は脚本も書かれていますが、この葬儀というテーマを基に映画を撮ろうと思ったのか、きっかけをお話いただけますか。
監督:そうですね。理由としては、当時ちょうど(コロナウイルスの影響で)パンデミックだったので、(身の) 周りでたくさんの人が亡くなり何度も葬儀に参加をしたのです。この脚本を書いた時は、ちょうど私が一番落ち込んでいた時だったのですが、死別というのはとても悲しいことですよね。だから、ぜひこの葬儀屋の話をテーマに一度映画を撮りたいと。 やはり私たち人間は、病気になったり、生き別れたり、死に別れたり、こうしたことを自分たちの力ではなかなか変えることはできず、受け入れるしかないと思いました。だから、今私たちが生きていることこそ、とても大事なことだと思います。限られた時間の中で、できるだけ周りの人のため役立つことはできないのか、 ということを、この映画を通して皆さんにお伝えしたかったんです。
──Q:役を演じるにあたって工夫した、勉強したことがありましたらお聞かせください。
ダヨさん:私の場合は、死化粧と、白装束を勉強しました。同時に、こうした葬儀をあげるのにどれだけお金がかかるのかということもしっかり勉強しました。
マイケルさん:そうですね。私は導師の役なのですが、非常に厳しい人で、頑固親父なんですよね。自分の子供に対してもあまり多くは語らない役柄なんです。でも、実はこうした性格は、私と真逆の性格なんです。だから、この役を演じるにあたってどのような準備が必要なのかというと、きちんとそうした性格を理解し頑固おやじとして生きなければならないということを考えながら準備をしました。
ミシェールさん:私の場合は、最後のセレモニーのための準備をするか、また、救急措置をどうするのかというところを勉強して準備をしました。
──Q:中国語タイトル(『破・地獄』)と、日本語タイトル(『ラスト・ダンス』)・英語タイトル(『The Last Dance』)はそれぞれ違っていますが、なぜこうしたタイトルをつけたのかお聞かせください。
監督:“破地獄”というのは、香港における葬式の過程の中の、1つのセレモニーです。 人間は死後、地獄か天国に行く。その前に、閻魔様の審判を受けなければならないということで、導師が呼ばれます。そこでセレモニーを行ってから地獄に行くので、地獄は1階建てじゃなくて、何階建てかになっていると考えられているんです。そして、火というのは地獄のイメージを代表するものだと思います。したがって、この導師が踊るように剣を使って地獄を壊していく。できるだけ死者が地獄に落ちないようにという目的でセレモニーを行います。
このセレモニーは、香港の、非物質的な、1つの伝承された文化遺産という風に扱われています。全体の過程を見るとちょうど踊ってるように見えるので、死後、あるいは死ぬ(前の)最後のダンスということで、英題は『The Last Dance』という風に名付けました。
中国語タイトルの『破・地獄』には、もう1つの意味があります。 私たちは、人生においていろんな地獄のような場面に遭遇します。生きているうちに色々なタイミングでその時々の地獄に出会う。では、どうやってこうした地獄を乗り越えていくのか、 この火を乗り越えていくのか。それだけではなく、色々な迷信や古い慣習、悪行をどんどん破っていかなければならない。そうした意味で、中国語タイトル『破・地獄』と英語タイトル『The Last Dance』はタイトルとしてぴったりだと思いました。
──Q:破地獄に関しての研究過程で、思っていた以上の発見はありましたか。発見を作品にどう活かしたのか、伺いたいです。
ダヨさん:劇中で、おじさんが死者の骨を拾っているんですよね。香港には、死後一定の時間が経ったら、土葬された死者を掘り出して残った骨を拾い、整えて、再び墓穴の中に入れる習慣があるんです。
撮影現場には、この場面を撮るための顧問の先生がいらっしゃいました。先生が仰るには、骨はまだ全部は腐敗してないんです。まだそのまま残っていて、この腐敗した死体、あるいは骨から色々な悪臭が漂うんです。この悪臭はなんと、日本の京都まで届くらしいんです。
匂いを処理するためには、骨を拾って乾燥させ、 綺麗にしてからもう一度埋める。一定の時間が経つと、再度掘り出して、整えて埋葬しなけらばならない。こうしたことは今まで聞いたこともありませんでした。あの場面を撮る時に、こうした知識を学びました。
この映画は、知らないことをたくさん発見できる撮影でした。死は、私たち全員が直面する問題で避けられないですよね。一方、死後、自分がどういう風に処理されるのかは全くわからないし、準備もしないわけです。この映画に出演したことで、演じている役柄の感情と同時に、そうしたことで色々と知らないことを学べました。
マイケルさん:私はリサーチには一切関わりませんでした。私はお化けが嫌いなんです、怖い。
(会場笑い)
マイケルさん:なので、リサーチは監督が全部1人でされました。
監督:香港は、葬式の形態が多種多様で、宗教ごとに方法も異なります。無宗教の人は、一般的に先ほどの民間伝承に従ってお葬式をしますが、それ以外だと、先ほどダヨさんも話していましたが、お葬式の時に読経する宗教もあります。 例えば道教の場合は、道教のお経があります。 仏教だと南妙法蓮だとか。道教の場合も南妙南妙だとか言うんです。
ところが、調べてみると、中国の伝統音楽である「南音」と、道教の「南妙」は非常に密接に関係していると初めて知りました。 この調査には、実は1年半もかかりました。当時、先ほどダヨさんが仰っていたように、顧問の先生と一緒に色々な葬式を見に行ったり、色々な場合を調べたりしました。この映画の中でも、遺体は腐敗しますが、どのようにそれを防ぐのか。それぞれの葬儀にそれぞれの事情があるので、たくさんの資料を読み、たくさんの現場の調査をして、色々と発見しました。
ミシェールさん:私も小さい時にいろいろな葬式に列席し、実際に「破地獄」というセレモニーを見たことがありますが、撮影時に初めて知ったことがありました。煉瓦を砕くのですがどうして砕くのか知らなかったんです。しかも、9つの煉瓦を全部砕いていくというのは、地獄が9階建てだからなのだと。9枚の煉瓦は、それぞれ1層、2層、3層ということを示しているんです。9枚の煉瓦を割って、死者が地獄に落ちないようにしていると知りました。
また、位牌というものがありますが、遺族が位牌を抱えて火を跨ぐ。死者の霊が地獄に落ちないように地獄から離れるという意味があると知りました。幼い時には全く知らなかったことです。位牌を持って火を跨いで越えていくなんて、すごいと思っていましたが、「なるほど、そういう意味があったのか」と。撮影時に初めて分かりました。
新谷さん:ありがとうございました。最後に、会場にベン役のチュー・パクホンさんがいらっしゃるとお伺いしましたが、ぜひ、一言ご挨拶をいただけますでしょうか。
チュー・パクホンさん:皆さん、こんばんは。私はチュー・パクホンと申します。映画を気に入っていただけると嬉しいです。ありがとうございました。
新谷さん:最後にもう一言、監督から皆様にメッセージをお願いいたします。
監督:皆さん、映画をご覧になって上機嫌でお帰りください。『ラスト・ダンス』をどうぞよろしくお願いいたします。