2024.11.04 [イベントレポート]
アニメーション監督になるためには? 世界各国の監督たちがそれぞれのルーツ語る
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各国のアニメ事情が明らかに

第37回東京国際映画祭で「アニメーション監督への道」と題したシンポジウムが11月4日、東京ミッドタウン日比谷のLEXUS MEETS...で行われ、本映画祭アニメーション部門で上映された『Flow』のギンツ・ジルバロディス監督、『ギル』のアン・ジェフン監督、『オリビアと雲』のトーマス・ピカルド=エスピラット監督が参加した。そしてこの日は『アイの歌声を聴かせて』の吉浦康裕監督を交えて、それぞれの制作スタイルなどを語り合った。モデレーターは、東京国際映画祭プログラミング・アドバイザーでアニメ評論家の藤津亮太氏が担当した。

アニメーション監督になるためには決まった道筋があるわけではない。そこで本シンポジウムでは、国内外のアニメーション監督が集い、アニメーションを志した理由やどのようにキャリアを積み重ねたのかを語り合い、アニメーションに対する可能性を浮き彫りにすることを目的に行われた。

まずは本シンポジウムのメインテーマとなる「アニメーション監督を志した経緯」からスタート。ラトビアの映像作家であり、アニメーターでもあるギンツ監督は「もともとわたしは映画をつくりたくて。若い時に友人と実写のショートフィルムをつくったこともあります。ただそこではやりたかった感じの物語ができなくて。アニメの方が自由に空想した物語がつくれるということに気が付きました。それと時間をかけてアイデアを模索できるということにも惹かれました」とそのきっかけを説明する。

3DCGという表現を選んだ理由については「手描きのショートフィルムもやったこともあるんですが、自分自身は美術系の学校に行ったわけではないため、描くのが上手だったわけではなかったんです。美術の授業はあったんですが、自分が描けるのはシンプルなものだけでしたし。だからストーリーテリングのツールとして3DCGを選びました。5分くらいのショートフィルムだったとしても、手描きだと無理だなと思った」そうで、「それと自分の性格的にもアニメーション向きだったと思うんです。わたしはものごとを考えたり、つくったりすることが好きで。100人くらいの人たちから、何をしたらいいのかと聞かれるのはあまり好きではないんです。『Flow』は大きなチームではあったんですが、徐々に人数を減らしていったんです。だから実写よりは疲れなかったと思います」と語った。

続いて韓国のアン・ジェフン監督は「わたしは幼い頃は田舎で過ごしていたので、自然などに囲まれて暮らしていました。だから映画や音楽に惹かれるようになったのは大人になってからなんです。そこで出会ったアニメの中には、物語や詩や音楽など全部があったので、そこに可能性を感じました。それにわたし自身、机に座って何かをつくるのが好きだったので、アニメーションをつくりたいと思いました」。

さらにドミニカ共和国でビデオ、アニメーション、絵画の分野で活動するトーマス監督は「わたしが若い頃はアニメーターになるかどうかは決めていませんでした。むしろ実写の長編映画の監督をしたかったんです。私の国ではアニメーションの業界がありません。高校を卒業してもアニメーションの学校はなかったんです。映画の学校だってなかった。でも何かクリエイティブなことはやりたかったんで、美大に行くことにしました。そこでショートフィルムをつくったりもしたんですが、その要素とアートをミックスして映画をつくるようになりました」とその経緯を説明。さらに「わたしはとてもシャイで、役者に連絡をとったり、友人のツテを使ってネットワークをつくったりすることが苦手だったので、コンピューターで絵を描く方が向いていたんです。もともと実写の監督になりたかったわけですが、そこにアニメーションの要素を入れていくうちに、次第にすべてをアニメーションでつくるようになった、という経緯です」と付け加えた。

そして吉浦監督は「昔から物語をつくるのが大好きで、それこそ小学生の頃は夏休みの自由課題で勝手に小説を書いて。それを発表していたりしていましたが、その後は演劇に傾倒して、役者を目指していたこともありました。そうやってあちこちふらふらしていたんですが、ちょうど自分が大学に入学した1999年ごろにデジタルツールが発達して。個人単位でアニメがつくれるようになってきて。それで大学時代は、いわゆるインディーズでの自主制作スタイルで、ただ好きだからということだけでアニメをつくっていたんですけど、ちょうどインディーズのアニメをつくることでプロへの道筋ができている頃だったので。アニメーションをつくり続けた延長でここまで来たという感じです」と説明した。

さらに映画をつくる過程で長編となってきたことについて「最後につくった個人制作の映画は25分だったんですが、ひとりではしんどいなと思うようになった。それで少しずつスタッフを増やして、既存の商業アニメーションのスタイルに近づいてきたわけですが、ただ一般的なスタイルとは違って。基本的には自分で全部つくるというスタイルに、ちょっとずつスタッフをふやしていったので。半インディーズという形ではあります」と語った。

 スタッフとの連携などについてもそれぞれのスタイルがあったようだ。ギンツ監督は「しばしば監督が成功を欲すると、次はより大規模でやることになりがちですが、そうするとコントロールを失うリスクがある。でも『Flow』くらいの規模だと自由度が高くなりますし、パーソナルでユニークな物語を語ることもできる。それが多くの方に共感してもらえることにつながる」と感じているといい、「『Flow』はチームでつくることしかできなかった。この作品はキャラクターも増えて、技術的にも複雑だったんです。アニメ表現においては水の表現というのが難しいんですが、アニメーション表現そのものが改善したなと思っています。それは自分よりも上手い人がチームに参加してくれたから。わたしはアニメーションをつくることができますが、ベストなアニメーターであるとは思っていないので、優秀な人と仕事ができました」とチームでつくることの利点について語る。

『オリビアと雲』のトーマス監督には「製作に10年かかったそうですが、スタッフの規模を大きくすることに興味はなかったのでしょうか?」といった質問が。それには「最初に長編をつくりはじめた時はアニメのショートフィルムを自分自身でしかつくったことがなかったんです。でも今回に関してはローカルなクルーを採用しました。そもそもわたしの国にはアニメーションの産業がないんです。だから教育が必要だと気付いたんです。もともとわたしは映像の学校でアニメーションを教えていたんですが、学生の中にわたしのチームに加わってほしい人材がいることに気付いて。15人のチームをつくりました」と説明。

さらにそこで気付いたこととして、「さまざまなバックグランドを持つ人が集まることで、一種類の視点だけでなく、さまざまな視点が入るということです。それぞれがそれぞれのスタイルやアイデア、リソースを提供してくれる。そうすると、ストーリーの中にさまざまな視点が入ってきたり、それぞれのキャラクターが同じ記憶を、別の解釈で考えるという描写をしていたので、この作品には合っていたと思います。もし大きなチームでつくっていたとしても、早く仕上がったとは思いません。というのは、このプロセスの中で、ストーリーを理解したり、アニメーションのやり方を見つけていくことが必要だったわけですから。とてもハイブリッドで、メディアが混在していたので、理解するのに時間がかかったんです。最初はわたし自身、ストーリーを固めたり、どういう視点で、ストーリーを語ろうかと考えていました。それが何年か続いて、それからアニメーションを入れて、それぞれのスタイルをどう組み合わせていくのかということを決めていきました。だから最初の3年だけでこの映画をつくったとしたら、また別の作品になっただろうなと。この時間をかけたからこそ、今の作品ができたんだと思います」と本作の製作スタイルについて語る。

アン監督は制作スタジオ「鉛筆で瞑想」を主宰している。大勢のスタッフとのコミュニケーションについて「アニメーションで難しいのは、監督が頭の中で考えていることをどう伝えるのかということ。そしてスタッフからの意見をどうすくい上げるか、ということは常に考えています。意見を統一させるために何度もコミュニケーションを取るようにしています。ただみんな絵が好きな人たちなので、長い対話をするというよりは、目の前で絵を描きながら、その場で話し合いながら、ひとつひとつ決めていくようにしています」と語る。

一方の吉浦監督は、日本のアニメーション製作の現状について説明する。「最新作の『アイの歌声を聴かせて』は大規模なスタジオでつくった作品なんですが、日本はアニメの歴史が長いので、アニメをつくる人材やワークフローが出来上がってるんです。だから絵コンテに落としこんで、こういうのをつくりますと言えば、わりと自動的にできあがる。だから最初に確実なイメージをつくりあげて、それを提示して伝えることが大事なのかなと思います」。

そんなそれぞれバックグランドの違う4人だが、「アニメーション監督に必要なものとは?」という質問が。それには「人それぞれで、普遍的なアドバイスはないが」と前置きしつつも、吉浦監督が「これを絶対につくりたいという執念」。トーマス監督は「ストーリーを展開する上での忍耐力」。アン監督は「希望を伝えること」。そしてギンツ監督は「やりたいことに対してのはっきりとした意図」とそれぞれに思うところを語った。
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