2024.11.06 [インタビュー]
「少年たちのドキュメンタリーを撮っていたとき、家と母親の物語というテーマが浮かびました」公式インタビュー『大丈夫と約束して』

東京国際映画祭公式インタビュー 2024年11月1日
コンペティション
大丈夫と約束して
カタリナ・グラマトヴァ(監督/脚本/編集/原作・中央)、イゴール・エングラー(プロデューサー/原作・右)、ユーリエ・マルコヴァー・ジャーチュコヴァー(プロデューサー・左)
大丈夫と約束して

©2024 TIFF

 
スロバキアの田舎の村で祖母に預けられた15歳のエニョは、仲間たちとバイクで走り回っている。母と暮らしたい気持ちは高まる一方だが、母の知られたくない一面が明らかになり、少年の心は揺れ動く――。
映画編集から出発したカタリナ・グラマトヴァの初長編劇映画は、素人たちを主人公に据えた青春ドラマ。本作の前に同じ場所で長編ドキュメンタリーを手がけたこともあり、地域の人々を起用した瑞々しい映像が作品の魅力を高めている。
 
 
──作品を興味深く拝見しました。この題材を取り上げた経緯からお聞かせください。
 
カタリナ・グラマトヴァ監督(以下、グラマトヴァ監督):まず、私はこのスロバキアの村の生活というものに興味を持ち、現実的なかたちで描きたいと考えました。自分が母親になる用意がまだできていなかったシングルマザー、そして望まれない子ども。彼らのスロバキアでの生活というものを映像にしたかったのです。
大丈夫と約束して
 
──監督は前作でドキュメンタリーを撮り、そこがこの映画の舞台にもなった村だと伺ったのですが。
 
グラマトヴァ監督:長編ドキュメンタリーを撮りました。撮るにあたって、少年たちにカメラに慣れてほしくてカメラを回していたら、いろいろな脚本のアイデアが浮かんできました。ここにはまだ物語があると感じたのです。この作品は、家と母親についての物語。ドキュメンタリーは、少年たちに焦点を当てた青春の話です。
 
──クレジットには原作者が書いてありますが。
 
イゴール・エングラー(以下、エングラー):まずグラマトヴァ監督がストーリーを書き、それを練り上げて一緒に書いていったのです。
大丈夫と約束して
 
──そうすると、原作者というか、共同脚本家的な役割ですね。
 
グラマトヴァ監督:彼とは高校が一緒なのですね。
 
エングラー:僕はロンドンにいて、彼女が村に行ってガラス工場を見学するときに呼ばれました。久しぶりに会ったわけですが、その時に少年たちのドキュメンタリーを撮ろうという話になりました。
 
──同級生ということですが、どこの高校なのですか?
 
エングラー:ホームタウンのコシツェには高校の映画学校があるのです。15歳から18歳を一緒に過ごして、卒業後に、僕はロンドン、グラマトヴァはチェコに行きました。
 
グラマトヴァ監督:私がこの村に行って映画を撮ろうとしたときに、彼に声をかけて、一緒に長編を撮ろうという話になったのです。
 
──シングルマザーの望まれない子どもたちのその後という題材は、スロバキアの普遍的なものなのですか。社会問題化しているわけですか?
 
グラマトヴァ監督:この映画の母親は、 子どもをつくる準備ができてない、自分の生活を優先したい。非常にフラストレーションを抱えているのです。子どもを育てなくちゃいけないけれど、自分の生活も確立しなければならない。そういうイラつきというものを描きたいと思いました。
映画の母親は、自活するために非道徳的なことをやっています。それを非難すべきかどうかという問題ですよね。特に田舎の村では、良識に縛られている。そういう現実を描きたかったのです。
 
──この映画では、少年の側から描いていますよね。
 
グラマトヴァ監督:やっぱり、自分が分かる視点から描こうと考えました。
 
エングラー:僕たちはちょうどその中間の年齢で、結婚してもう2、3人子どもがいる人もいれば、 独身の野心家で、なんとか自分の人生を生きようという人たちもいると。僕たちはまだ結婚してないし子どももいない。子どもの側が、自分がより共感できるというところが理由です。
 
──自分で映画を撮るときには母と子のテーマで行こうと考えていたのですか。
 
グラマトヴァ監督:母性とか母親というテーマは常に興味があって、短編映画を撮っている時から扱っていました。次回作も実は非常に似たテーマになっていますが、視点を変えようと思っています。
 
エングラー:ストーリーは現実に影響されて生まれましたが、母親という核は変わりません。
 
──少年たちのキャスティングはどのように決定したのですか。
 
エングラー:4人の少年は本当に友達で、オートバイの修理に熱中する村の子どもたちをたまたま使ったという感じです。
 
グラマトヴァ監督:脚本も彼らに合わせて書いていました。
 
エングラー:演技したことももちろんないし、全くの素人。初めは映画に何の興味も示さなくて。私たちを信頼してくれるまで一生懸命追いかけました。
 
グラマトヴァ監督:プロの俳優ももちろん出ていますが、プロじゃない人の方が良かった。
 
──ドキュメンタリーみたいな構成の中にストーリーを織り込んだかたちですね。
 
グラマトヴァ監督:実際のものも入っていますが、偶発的なものはなく、全部計画通り撮影しました。
 
──映画高校を出られたということでしたが、スロバキアの映画産業は盛んなのですか?
 
グラマトヴァ監督:スロバキア映画は、オスカーを受賞した作品が2本ほどあります。でもスロバキア人はアメリカのヒット映画を見に行くのが普通です。
 
エングラー:スロバキアは600万人の人口ですが、映画高校は1校しかないのです。4つ教室があって、20人ぐらいの学生が各クラスにいます。
 
──グラマトヴァ監督は自国で映画を作ることができた。そういう人は少ないのですか。
 
エングラー:まず、助成金はスロバキアの公的機関だったり、テレビ局だったり。先に脚本に対して助成金を貰う。実際に15分間ぐらいの映像を作って能力を見せると、それにお金を貰える。低予算ですが、お金集めは簡単ではない。チェコからの援助も欠かせません。
 
──新作のご予定を聞きましょうか。
 
ユーリエ・マルコヴァー・ジャーチュコヴァープロデューサー):監督のショートムービーを実は来週から撮り、長編映画を来年撮影に入ります。
大丈夫と約束して
 
エングラー:長編映画が1本、ハンガリーとの共同制作になります。
 
 

インタビュー/構成:稲田隆紀(日本映画ペンクラブ)

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