10/30(水)アジアの未来部門『幼な子のためのパヴァーヌ』上映後に、チャン・ジーアン監督(中央)、フィッシュ・リウさん(俳優・右)、ナタリー・スーさん(俳優・左)をお迎えし、Q&Aが行われました。
司会:阿部久瑠美 鎌倉市川喜多映画記念館 学芸員(以下、阿部さん):ゲストの方々、一言ずつ最初にご挨拶をお願いいたします。
チャン・ジーアン監督:(以下、監督):(日本語で)みなさん、こんばんは。私は監督のチャン・ジーアンです。
フィッシュ・リウさん:(以下、フィッシュさん):(日本語で)こんばんは、皆さん。女優のフィッシュ・リウです。 新しい作品を携えて、再び東京国際映画祭に来ることができ、 とても嬉しく思います。
ナタリー・スーさん:(以下、ナタリーさん):(日本語で)こんにちは。ナタリーです。ここに来られてとても光栄です。ご支援ありがとうございます。
阿部さん:最初に監督に質問させていただきます。この映画を作ろうと思った理由、きっかけがあれば教えてください。
監督:2016年に、大学の同級生から赤ちゃんポストでボランティアをしたという話を聞き、興味を持ちました。
彼女がどうして赤ちゃんポストでボランティアをすることになったかというと、当時付き合っていた彼氏に振られてしまい、その彼氏が(映画)監督になったんです。私ではないですよ(笑)それから、彼女には中絶の経験があり、そうした自分の辛かった経験からこの赤ちゃんポストで働くことになったと語ってくれました。彼女はいろいろと話してくれたのですが、彼女自身はムスリムで、ムスリムの人たちは非常に保守的なので、赤ちゃんポストを作って子どもを救うことは、生殖に関する自然の摂理を揺るがすことだと言われ、家族にも怒られて、叱られたそうです。 家族からは、そうしたことをしている以上、天国には行けない、もう地獄に行くしかないと言われたそうです。
それから、2021年になって、(この映画に)出資する人が出てきてくれたので、作品のテーマを、赤ちゃんポストとその女性の中絶の問題に絞って撮ることになりました。
阿部さん:ありがとうございます。それでは、フィッシュ・リウさんとナタリー・スーさんからも、この映画のどんなところに惹かれて出演することを決めたのか、一言いただいてもよろしいですか?
フィッシュさん:まず、私自身はマレーシア人です。私は香港で芸能活動をして12年になりますが、ずっとマレーシアに帰って仕事をしたいと思っていました。そうして12年経って、マレーシア人の監督が映画を撮るということで、 私は脚本を読む前からぜひこの映画に出演したいという思いがありました。
特に、この作品が女性をテーマにし、女性の視点から描かれていることに非常に興味を持ちました。私は香港で女優をしていますが、やはり出演する多くの映像作品は、商業的なジャンルの映画が多いのです。なので、私はこの作品の脚本を読んで、とても興味を持ち、強く惹かれました。
女性というのは、生活の中で常に苦難に見舞われています。例えば、女性には月に1回の月経があります。また、堕胎の問題、どのように子どもを生み育てていくかという問題もあり、そうしたテーマに私はとても興味を持ち、惹かれました。
ナタリーさん:私は、マレーシア人の女性を演じるということにとても興味を惹かれました。やはりマレーシアという国は独特で、様々な民族、様々な文化が一緒になっている国です。この脚本で描かれているのは女性の問題ですが、異なる文化が一緒に存在する国で、女性がどのように暮らし、生きているのかということに興味を持ちました。
そして、チャン・ジーアン監督と一緒に映画を制作できるということも、とても光栄に思いました。監督はずっと文芸作品を撮っていらっしゃるので、 そうした作品に出ることにチャレンジしたいと思いました。
私が演じた役は、実際の私とは全然違うんです。その自分との違いに興味を持って、ぜひ演じてみたいと思いました。
──Q:この作品では、宗教家が、立場を利用しておぞましい事件を起こすシーンが描かれています。これは実際の事件が元になっているのか、リサーチをされたのか教えてください。
監督:実は、私の父もこうした占いをする法師なのですが、父は悪人ではありません。いろいろと取材をしてこの作品を制作しましたが、法師という父の職業上、小さい頃から色々なことを耳にはしていました。
最近になって、思わぬ妊娠をしてしまった女性、望まぬ妊娠をした女性たちを(法師が)騙すという話を聞くようになりました。それは、コロナ禍の影響が大きく、社会的な問題になっています。コロナのために(外に出られず)閉じ込められて、妊娠してしまった女性たちの話を聞きました。そして、何らかの慰めを求め、心の痛みを軽くするために、宗教家のところに出入りするようになってしまったという女性たちを取材しました。それは、1つの宗教だけではありません。今回、取り上げたのは道教系で、あまりセンシティブな題材になり過ぎないように、1つの宗教だけを取り上げましたが、実際にはほかにもたくさんの事例があります。今回は、華人社会の神秘的な宗教を取り上げて、1つの例として描きました。
実は、この映画では描いていませんが、先月頃、8歳から20歳ぐらいの女性200名ほどが騙されて性被害に遭うという重大な事件が報道されました。実際に起きてしまった、女性に対する悲劇的な事件です。皆さん、ぜひ注目してニュースを見ていただければと思います。
──Q:映画の中で、男の子を産んだと言って、シャーマンのような踊りをされた方がいらっしゃいました。 あの役を演じていたのは、俳優さんなのか、それとも実際のダンサーさんなのかをお伺いしたいです。
監督:注目していただいたシーンの女性ですが、マレーシアのミナンカバウ族の方で、映画の役者さんではないですが、演劇で活躍している方です。 ミナンカバウ族というのは母系社会で、全ての財産を代々、女性が受け継ぐシステムになっています。ただ、今は、だんだんと父系になり男性が相続するように変化もしています。 これは、イスラム教の影響を受けており、彼ら固有の文化がゆっくりと変化していることを意味しています。
──Q:監督ご自身のお友達やお父様のお話を取り入れてらっしゃるということですが、フィッシュさんやナタリーさんなど、女性視点のアドバイスが反映された部分があれば教えていただきたいです。
フィッシュさん:撮影時、マレーシアでこの映画に参加できるということがとにかく嬉しかったんですよね。 特に違ったのはスピード感で、香港では物事が進むスピードが速く、色々なことを素早く進めていくのですが、マレーシアは、ゆっくりしているということが大きな生活上の違いだと思います。今回の撮影では、監督とゆっくりおしゃべりをしながら相談をして、私も撮影に参加しながら色々なことをお話しさせていただけたことが、とても嬉しかったです。
特に印象深いのは照明です。照明をすごく上手に使って、 ゆっくりと時間をかけて撮っていきました。撮影にゆっくり時間をかけるということはお金がかかるということなので、出資してくれたスポンサーの方に感謝したいと思います。
ナタリーさん:そうですね。とにかく、ゆったりと映画制作ができたということ、それがとても印象的でした。 クランクイン前も割と時間に余裕があって、映画の準備をしっかりとできたと思います。
例えば、ワンシーンごとにみんなで話し合って、ここはこういうものを入れた方がいいんじゃないかとか、もっとこういうふうにしたら良くなるんじゃないかとか。例えば、セリフのひとつをとってみても、日常の言葉はもっと普段から使う言葉遣いに変えた方がいいんじゃないかとか、 そういう話し合いもしていました。また、赤ちゃんポストの中の部屋も、自然な雰囲気が出るようにみんなで知恵を集めて考えました。
そうした時間があったこと、こうした撮影に加われたということはとても幸せで、楽しかったです。時間が私たちにくれたプレゼントでした。