10/28(月)Nippon Cinema Now『あるいは、ユートピア』上映後に、金允洙(キム・ユンス)監督、藤原季節さん(俳優)、渡辺真起子さん(俳優)をお迎えし舞台挨拶が行われました。スペシャルゲストとして、行定 勲監督にもご登壇していただきました。
司会:市山尚三プログラミング・ディレクター(以下、市山PD):それでは、ゲストの皆さんにご登壇いただきたいと思います。大西美和子役を演じられました渡辺真紀子さん、小説家・牧雄一郎役を演じられた藤原季節さん、そして、本作が長編デビュー作となる金允洙(キム・ユンス)監督です。また、本日はスペシャルゲストの方がいらっしゃいます。今回の作品が生まれるきっかけとなったAmazon Prime Video テイクワン賞で審査委員長を務められました行定勲監督です。
渡辺真紀子さん(以下、渡辺さん):皆さま、こんにちは。大西美和子役を演じました渡辺真起子です。今日のこの上映は、東京国際映画祭初日の第1回目の上映だったそうで、大変光栄に思っております。ご来場ありがとうございました。
藤原季節さん(以下、藤原さん):牧雄一郎役を演じました藤原季節です。『あるいは、ユートピア』いかがだったでしょうか?(場内から拍手)
ありがとうございます。今日は世界最速で皆さんに観ていただいたことをすごく嬉しく思いますし、金允洙(キム・ユンス)監督の商業デビューという作品に出演者として立ち会えたことを幸せに思います。よろしくお願いします。
金允洙(キム・ユンス)監督(以下、キム監督):みなさん、本当にありがとうございます。雨が上がってよかったです。なんとなく分かってはいましたが、自分が監督した作品を観た直後の方々とこうして相対することが、かくも恐ろしいことなのかということを強く実感しています。ありがとうございました。
市山PD:『あるいは、ユートピア』が制作されたきっかけは、2021年から昨年まで東京国際映画祭の中で開催されていました”Amazon Prime Video テイクワン賞”です。この賞は、未来の映画人を発掘することを目的として、それまでに商業映画の監督、脚本、プロデューサーを担当したことのない、日本在住の映画作家を対象に作品を募った賞です。 その第1回である2021年にこのテイクワン賞を受賞したのがキム監督で、賞金100万円に加えて、副賞としてAmazonスタジオとの長編映画制作の開発の機会が与えられ、今回の作品が完成するに至りました。
また、この賞の審査委員長を3年にわたって務めていただいたのが、今日ご来場いただきました行定 勲監督です。テイクワン賞受賞のキム監督が、今回そうした経緯で制作した作品をお披露目するということで、感想を伺いたいと思います。
行定 勲監督(以下、行定監督):本当にキム監督お疲れ様でした。そして、おめでとうございます。というのも、映画は完成しない場合もあるので、この作品を作り上げたということが僕自身も本当に嬉しいです。どんな映画が仕上がるのかと楽しみでした。
3年前に観た受賞作品『日曜日、凪』という映画はカップルの話なんですね。小さな話の中に、登場人物の内面というものがだんだん露呈されていくという面白さがあって、非常に魅了された作品でした。そして、商業映画デビューとなった今、これだけの群像劇を、しかも素晴らしい俳優たちを配して気負うことなく、表現として見事に最後まで魅了させてくれたというのは、本当に素晴らしいなと感心しております。
また、この作品は、配信に対しても強く意識が向けられていると思います。でも、キム監督の作品は、やっぱり映画なんですよね。「引き」を多用した演出というところに、ものすごくこだわりを持っているということがわかります。あと、大胆だなと思ったのは、「『風の谷のナウシカ』の王蟲(オーム)みたいな」というセリフが1つあるだけで、全て外の世界を借景してしまうというですね。見せなくても借景ってできるんだなっていう。これは舞台などでも、今までもやってきたことだと思うんです。ただ、そうした部分がものすごく巧みだなと思って、それを最後まで面白くなるよう、どのように解決していくのだろうかと。
僕の感想を言うと、この群像劇は、僕らの時代だったらもっと狂乱というか、狂っていくみたいな方向に行くのですが、そうじゃないんですよね。そこが裏切られたところであり、これは今を生きる若手監督が作るあの映画の着地点だったのだと、すごく感銘を受けました。
市山PD:改めて、キム監督、映画の完成本当におめでとうございます。 それでは、『あるいは、ユートピア』について、ご質問させていただきます。
まずキム監督ですが、どのようなきっかけでこのかなり妙な、誰も思いつかないような設定を考えついたのかお聞きしたいと思います。
キム監督: 何がきっかけというのは正直おぼろげではっきり覚えていないのですが、当時、別の仕事で札幌の方にいまして、その時に、ほとんどマンションの一室に閉じ込められてるような状況だったということが大いに関係しているのかなと今になって思いました。
市山PD:その外に虫が大量に歩いているというこの設定は、何が元になっているのでしょうか。
キム監督: 僕はすごく虫が嫌いなので、何があったら外に出ないかなと考えた時に、多分そのことが大きく関係したのだと思います。
市山PD:映画を観て、音量にすごくこだわっているのではないかという気がしたのですが、その点はいかがでしょう。
キム監督:姿を見せずに、物語が最後まで進んでいくので、見えないものを想像させるためには音に頼るしかないと思い、音響の方と、かなりこだわって音を作りました。
市山PD:脚本は、撮影前のものから直した箇所はあるのでしょうか。それとも、おおよそ脚本通りに撮られたのでしょうか。
キム監督:(少し悩んで、藤原さんに確認)
藤原さん:聞いてなかった。今、なんの話をしていたんでしたっけ(笑)
キム監督:撮影前の脚本と現場に入ってから脚本が変わったか。
藤原さん:変わっていないと思います。
キム監督:(藤原さんに被せるように)変わっていないと思います。
市山PD:それでは、藤原さんと渡辺さんにもご質問をしたいのですが、脚本を読んだ時にどのような印象を持たれましたか。
藤原さん: 脚本を読んだ時の印象は、先ほど行定監督がおっしゃっていましたが、本来だったら争い事が起きそうなシチュエーションで、この物語では争いが起きなかったり、起きる寸前で終わったりとか。外の世界で確実に世界が破滅に向かっていくというか、状況が悪化していく中で人々が無関心になっていく、そういう描き方がすごく現代的だなと思って。そういう作品が面白いなっていうのと、みんなが規律を守って聖域のような場所が誕生していくっていう、その過程がすごく面白いなと思いました。
渡辺さん: 最初は、世界滅亡と虫という設定かと。どう撮影するのかなっていうことと、実際の撮影期間が3週間しかない中で、台本の中で色々と構成されていて、しかも群像劇で。難しい課題がいっぱいあるなと、多少不安なまま現場に入りました。あと、歌も不安でしたね。
市山PD:藤原さんは役作りに関して何か苦労した点はありましたか。
藤原さん:虫の話で言うと、 僕は虫に慣れないといけなかったので、自分が寝泊まりをしている部屋に虫を持ち帰って虫と生活していたのですが、それは本当に苦しかったですね。
渡辺さん:でもあの虫は可愛いじゃん。
藤原さん:でも夜、電気を消してからカサカサ聞こえてくると、うわーってなるんですよね。やっぱり(苦笑)
市山PD:渡辺さん、何か言おうとしたことがありますか。
渡辺さん:虫に会えなかったなと思って。
市山PD:監督にも質問します。本日はお2人にご登壇いただき、他にもすごく個性豊かな皆さんが出演されていますが、キャスティングはどのように決められたのですか。
キム監督:基本的に僕が希望する方に声をかけて、プロデューサーの方に相談をしながら進めました。ほとんど理想通りのキャストの皆さんが集まってくださいましたが、打ち合わせした後の写真を並べてみると、失礼で申し訳ないですが、動物園みたいだなと。戦々恐々としていました。
市山PD:撮影中に印象に残ったエピソードなどはありましたか。
キム監督:言えること、言えないことがありますが、なんだろう。
藤原さん:僕たちは、ホテルに缶詰になって撮影していたので、キャストやスタッフの体調を気遣ってか、 原日出子さんが、毎日手料理をみんなに振る舞ってくださって。毎日撮影が終わったら、料理に並んでいるという。 休みの日は(渡辺)真起子さんも作ってくださったりして、本当に、夢のような。
キム監督:原さんにありがとうございますと言うと「役作りだから」とおっしゃっていて。かっこいい、素敵ですね。
市山PD:それでは、最後に一言お願いします。まず、行定監督からお話いただきたいのですが、最近、日本の映画や配信作品が、海外でもとても注目されてると思いますが、 行定監督をはじめ、若い監督たちは、映画人に何か期待することがありますか。
行定監督:そうですね。先ほどもお話ししましたが、やはり、映画はスクリーンで観るものであるということと、最終的に世界に配信されていくっていうことが、今の時代においては、両立されていなければいけないと思うんですが、ただ、やはり、自分が作りたいものはこれなんだというような思いがあって。
作品をつくるという時には、俳優もその台本を読んだときに、やはり心に響くものがあるんだと思うんですよね。だから、これだけ素晴らしい俳優が一堂に会して、どうも3週間で撮ったんだよね?それでホテルに缶詰になって。
こんなこと多分2度とないし、 なかなか簡単に成立する環境ではないと思うんですが、これを作り上げたというのは、すごくたくましいことだなと思いました。やはり、これを作りたかったんだと感じ取れる作品を、スクリーンで食らうというか。そういうことっていうのは、やっぱり素晴らしいなと改めて思いました。
市山PD:ありがとうございました。それでは、キム監督、出演者の方々からも一言いただきます。
渡辺さん:本当にこんな機会を与えていただいて光栄に思います。今日はご覧いただき本当にありがとうございました。そして、11月の2日にも、もう一度上映がございます。皆さんのお力をお借りして、面白かったり、仮につまらなかったとしても、どこかで囁いたり、つぶやいたり、ぜひ広めていただいて、またお客さんたくさん来ていただけたらいいなと思います。
そして、映画祭も今日始まったばかりです。様々な国からの参加があると思います。この映画祭で、皆さんもどこか遠い国の誰かと繋がったり、自分の物語を見つけたり、色々な体験をしていただけたらと思います。本日は本当にありがとうございました。
藤原さん:今日はありがとうございました。個人的な話になるんですが、僕は、この『あるいはユートピア』の撮影が、2年ぶりの映画の撮影だったんですね。その2年の間には、企画が倒れてしまったり、色々なことがあったりして、本当に映画に縁がなくて。やっぱり僕じゃダメなのかなと思っていた時に、こういう物語が自分の元に届いて、そのことに本当に感謝しています。
世界が終幕していく中で、なりたい自分になっていく牧雄一郎という人間の強さに すごく魅了されました。今日、来ていただいた皆様と、東京国際映画祭のスタッフの皆様にも本当に感謝申し上げます。
映画祭、最後まで頑張ってください。楽しみましょう。ありがとうございました。
キム監督:僕も個人的なことになってしまうんですが、先ほどお話にも出していただいたように、Amazon Prime Video テイクワン賞を僕は3年前に受賞していて、その際に、東京国際映画祭に長編映画で戻ってくるっていうことを舞台上で宣言してしまったんです。なので、今日こうして実現できて、本当に僕自身とても安心しています。
その3年間が長かったのか短かったのか、今の僕には分からないですが、また 東京国際映画祭に戻ってくると思います。今日は本当にありがとうございました。映画祭、楽しんでください。スタッフの方も頑張ってください。