2024.11.01 [インタビュー]
「映画をご覧になった皆さんが、母親との関係を見つめ直してくれたらうれしいです」公式インタビュー『娘の娘』

東京国際映画祭公式インタビュー 2024年10月29日 
コンペティション
娘の娘
ホアン・シー(監督・右)、シルヴィア・チャン(女優/ エグゼクティブ・プロデューサー・右から2番目)、カリーナ・ラム(女優・左から2番目)、ユージェニー・リウ(女優・左)
娘の娘

©2024 TIFF

 
台北に住む60歳過ぎの女性アイシャ(シルヴィア・チャン)は、娘のズーアル(ユージェニー・リウ)が同性パートナーとの間に子どもを持つため、ニューヨークへ体外受精治療を受けに行くのを疑問視していた。しかしある悲劇が起き、アイシャもまたかつて暮らしたニューヨークへ旅立ち、かつて里子に出した最初の娘エマと向き合う。
 
日本で『台北暮色』(18)が好評を博したホアン・シー監督の2作目は、凍結胚(受精卵)による出産という今日的題材を扱いながらも、母と娘の複雑な関係を温もりのある目で見つめた感動作。物語の要となるエマ役にカリーナ・ラム。撮影のヤオ・ホンイー、美術のホアン・ウェンイン、衣装のガオ・シェンリン、編集のリャオ・チンソンと、ホウ・シャオシェン組のベテランが脇を固め、盤石の布陣で作られていることも特筆しておきたい。
 
この取材はアジアン・プレミアとなる上映が行われた後、余韻冷めやらぬなか行われた。
 
 
──東京でのプレミア上映はいかがでしたか?
 
ホアン・シー監督(以下、ホアン監督):第1作の『台北暮色』が日本公開され、気に入ってくださる方も多かったので、特別な思いで見守りました。Q&Aではいい質問が飛び交い、細部までよく理解して質問してくださる男性がいらしたことも印象的でした。
娘の娘
 
シルヴィア・チャンさん(以下、シルヴィアさん):皆さん上映後も残って、私たちの話を聞いてくださり感動しました。日本では、こういう作品があるのかなと気になりました。子どもを産むという営みを見つめて、母と娘の関係を描いた映画はあったのかしらと。映画祭で観客の皆さまと一緒に作品を観るたびに、私自身も感動が深まっていくのを感じています。
娘の娘
 
カリーナ・ラムさん(以下、カリーナさん):初めて日本の観客の皆さまと一緒に作品を観ることができて、非常に感慨深いものがありました。ふだん自分の出演作を観ると、大変だったことや撮影時の思い出が頭を横切ったりしてなかなか入り込めないものですが、今日はすごく入り込めて、母のアイシャにもつらい過去があったことをエマが理解する場面に、ひとりの観客として感動しました。
娘の娘
 
ユージェニー・リウさん(以下、ユージェニーさん):スクリーンで作品を観るのはこれが2回目ですが、この度は母アイシャ、姉のエマと一緒に観ることができて、すごく気持ちが昂りました。映画の中で私は、ずっと携帯電話でアイシャと連絡を取り合っていますが、ある日突然電話に出られなくなって、ずっと「ママ、ごめん」と思っていましたから(笑)。特に印象深かったのは、私とパートナーがワインショップで撮った写真をアイシャが見ている場面です。私はもう居ないんだと思うとつらくて、アイシャからもらった愛を、もらえなかったエマに分け与えてあげたい気持ちになりました。
娘の娘
 
──シルヴィアさんはプロデューサーも務めています。
 
シルヴィアさん:6年前、ホウ・シャオシェン監督を通じて脚本を読む機会があり、ただ悲しいだけのストーリーにしてはならない、内なる悲しみを見つめる作品にしたいと、ホアン監督と議論しました。特にエマをどう描くかは重要で、彼女は主人公の心の中にだけある存在かもしれないと想い馳せました。
 
──監督はそれから推敲を重ねた?
 
ホアン監督:コロナで制作ベースを落としている期間に、最後にもう一度脚本を見つめ直し、より深みのある役柄にひとりひとりを造形しました。
 
──台湾では2019年に同性婚が認められましたが、体外受精で子どもを作ることはまだ認められていません。そのことへの違和感が物語を生むきっかけになったんでしょうか。
 
ホアン監督:その当時は『台北暮色』を撮り終え、アメリカに行っていましたので、台湾で同性婚が認められたこととは、あまり結び付きはありません。それよりも、アメリカで人工受精や不妊治療、生殖治療をしている人が本当にたくさんいる事実に驚かされました。不妊治療を受けたり、 シングルでも子どもを持ちたいと思う方が大勢いるのを知って、この題材に興味を持ったのです。
 
──皆さんの役柄それぞれに共感できる要素がありますが、演じていて最も共感できた部分はどんなところでしょう?
 
カリーナさん:私が演じたエマは里子に出された役で、アイシャとその母の関係にも運命的なものがあり、自分とアイシャの関係もそれとよく似ていると知る役です。エマと息子の関係も同じ運命の轍に位置づけられていると思うんです。すべては運命の歯車の中で回っていて、人生というのはそうものだと自分の周囲を顧みて思いました。役としてはその部分に最も共感しましたね。
 
ユージェニーさん:私の役は普段の私とは全然違う真逆の性格です。私は親孝行ですが、ファン・ズーアルは反抗的です。自分がふだんしないことを映画の中で全部しているんです。彼女は、母のアイシャがなりたくてなれなかった存在なんだと思います。母の希望が託された役だと。なぜなら、胚から生まれた子は母の元に居るからです。私は映画を見届けて、すごく気持ちが楽になってほっとしました。
 
シルヴィアさん:母と娘の関係は、とても説明しにくいものがあります。 私はかつて母に対して非常に反抗的な態度を取っていました。母が97歳になった今は大変親密ですが、なぜ母が高齢になるまで仲良くできなかったのか後悔の念に駆られます。もっと前から仲良くしていればよかったと。映画をご覧になった皆さんが、母親との関係を見つめ直してくれたらうれしいです。
 
──皆さまのアンサンブルが見事ですが、アイシャの友人や母親役の方もどこか印象に残ります。ホウ・シャオシェンがよく使っていたような身近にいる素人の方なのでしょうか?
 
シルヴィアさん: 一緒にエアロビをする女の人は私の実際の友だちです。また私の母親役を演じてくれた方も、香港で私が勉強していた時代に音楽を教えてくれた先生です。こんな風に現実の人間関係を役柄に取り入れることができたのも、私にはうれしいことでした。
 
娘の娘
 

インタビュー/構成:赤塚成人(四月社)

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