10/31(木)ワールド・フォーカス 生誕100周年 マルチェロ・マストロヤンニ特集『甘い生活』上映後に、キアラ・マストロヤンニさん(俳優)をお迎えし、トークショーが行われました。
司会:市山プログラミング・ディレクター(以下、市山PD):今日は、主演のマルチェロ・マストロヤンニさんの娘さんで、今回、東京国際映画祭で審査員を務めていらっしゃいます、キアラ・マストロヤンニさんにご来場いただきました。皆さん、どうぞ拍手でお迎えください。
キアラ・マストロヤンニさん(以下、キアラさん):こんばんは。
市山PD:作品について一言お願いします。
キアラさん:長い映画だったので、皆さんお疲れではないかと心配しています。今回、私も日本に来ることができてすごく嬉しいとともに、少し不思議な気持ちでいます。自分の映画ではなく父親の映画のお話ということで、 なるべく父親が目指していたことに対して誠実にお話しができたらと思います。
この映画は、非常に有名な映画になりました。 今、ヨーロッパでは、90パーセントのピザ店が「La dolce vita」(『甘い生活』の原題)という名前になっているそうです。しかし、その名前の由来を今ではもう知らない人たちも多いのではないかといわれています。
この映画は、今でこそ素晴らしい作品として知られていますが、60年代のイタリアでリリースされた当時は、少しスキャンダルとなりました。というのも、イエス・キリスト像が登場するのですが、バチカンがそれに対して非常に強い反応を見せたことと、シルヴィア役のアニタ・エクバーグさんが官能的だということで、あまり良い評判を聞かなかったようです。
実は、私も2週間前にレストアバージョンを見ました。今観てもすごく現代的な作品で驚きました。 当時のイタリアを描いており、今ではあのような描き方はできないだろうと思います。今観ても非常に美しい映画です。また、激しい部分もありながら、詩的な部分もあります。それにも関わらず、当時はスキャンダラスな作品ということで、父親の話では、町の中で多くの人に唾を吐きかけられたという話を聞いたこともありました。
今では、非常に大きな成功を世界でも収めているかと思います。全体の来場者数は当時で700万人でした。今の感覚では、大人数という感じはしないかもしれません。けれども、時代を考えればかなりの成功だと思います。
私がもう1つ衝撃を受けたのは主人公の描き方です。主人公は、人生に希望を失い、悲しみと闇の部分を持っていて、メランコリーが目の中に見えるキャラクターとして描かれています。改めて、私も非常に素晴らしい映画だと思っております。
市山PD:皆さんの中で、今日初めてこの映画観たという方はどれぐらいいらっしゃいますか?(手を挙げた人数を見て)かなりの方が初めてご覧になったのですね。今回、上映できて本当によかったと思います。
キアラさん:そうですね。今回のレストアバージョンは非常に素晴らしい出来ですが、それには、マーティン・スコセッシ監督の財団の寄付があったと聞いております。皆さん、当たり前に美しい映像を観ていると思いますが、レストアの作業は本当に大変な作業なので、改めて感謝の気持を表したいと思っております。
もし父親が生きていて、私がここに座っているのを見たら、おそらくニコニコ笑ってくれると思います。今回、私が日本に来るのは2回目です。1回目は、35年前でした。
35年前、父親が映画のプロモーションのために日本に招かれたということで、ぜひ私も行きたいとお願いして、一緒に日本旅行もしようとなりました。東京、京都などを発見する旅ができました。
この35年後に、まさか自分がこのステージに座って父親の話をするなんて、思ってもいませんでした。非常に感慨深く、嬉しいです。日本と聞くといつも、父親との繋がりを思い出します。
市山PD:今回の映画祭のクロージング作品として、キアラさんが主演された最新作『マルチェロ・ミオ』を上映します。本当に素晴らしい作品で、僕もカンヌで観て、ぜひ東京に招待したいと思い、クロージング作品に決めました。
今作は、キアラさんがご本人の役で、しかも男装して出演されています。男装されているとお父様にそっくりです。作中に、トレビの泉の有名なシーンが出てきます。ぜひとも皆さんに観ていただきたいです。
キアラさん:『マルチェロ・ミオ』の中には、父親が生涯で演じた役も少し出てきます。あらすじとしては、自分を見失った女優が、この世の中から消えたいと思っており、それならば、亡くなったお父さんのような恰好をして、お父さんと一緒に生活しようと考えるという話で、ゴーストストーリーのような部分もあります。私たちも家族や大切な人が亡くなった時、何がなんでもその人をもう一度取り戻したい、もう一度戻ってきて欲しいなと思うので、皆さんも共感できると思います。そういったスピリチュアルな面もある映画です。
このフェスティバルのこの方々に、ぜひ感謝の気持ちをお伝えしたいです。記者会見でもお伝えしましたが、このように父親の映画を上映していただくことは非常に貴重なことだと思います。また、若い世代にとって、今では話題にならないような素晴らしい映画もあると思いますので、そういった映画を発見あるいは再発見していただく良い場だと思います。