10/29(火)コンペティション部門『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』上映後、大九明子監督登壇のQ&Aが行われました。
安田佑子アナウンサー(以下、安田アナ):それでは、一言皆様にご挨拶をお願いします。
大九明子監督(以下:大九監督):本日は朝早い上映回にもかかわらず満席だと聞いております。たいへん多くの方にご覧いただき、どうもありがとうございました。監督を務めました大九明子です。短い時間ですが、よろしくお願いいたします。
安田アナ:今日は、ワールドプレミアですね。
大九監督:そうなんです。正真正銘、これがお客様にお披露目するワールドプレミアの瞬間です。
安田アナ:初出しということで、監督のお気持ちをお聞かせください。
大九監督:とてもドキドキしていましたが、 始まると、スタジオで編集している時以上にこみ上げるものがあり、いち観客として楽しんでしまいました。
安田アナ:とても引き込まれました。監督の作品は本当に緩急が良いですよね。今回もたくさんセレンディピティがあったかと思えば、長ゼリフでグッと聞かせるところに引きこまれました。
英語版タイトルは日本語のタイトルとは違いますが、理由をお伺いしたいです。
大九監督:日本語のタイトルはとても長く、これを直訳するという可能性も色々と探りました。ただ、その過程で日本語の中にあった繊細さのようななものが失われていくと感じて。そうしたなかで、翻訳をつけてくださったチャド・マレーンさんが、提案してくれたこのタイトルに一発で惚れこんでしまい、このタイトルに決まりました。
安田アナ:英語タイトルだと『She Taught Me Serendipity』ですね。
──Q:映画では、原作にある言葉を監督なりに咀嚼して表現されていた印象を受けましたが、それらの箇所のこだわりを聞かせていただきたいです。
大九監督:ありがとうございます。 原作とは終わり方も違いますし、変えているところがたくさんあるので、 原作ファンのみなさんがどのように思うかというのはすごく心配でしたが、今お話しいただいたように、原作にある言葉を私なりに一度咀嚼して考えていきました。そのなかで、私がいつも思っていることを乗せて増幅させられる部分を考えたり、 反対に、おばあちゃんの言葉は(萩原利久さんが演じる)小西にとってのみ大事、というと極端ではありますが、映画においてそのまま映像化することは、小西という人物を丁寧に描くことに繋がるかというと決してそうではないと思ったので、 (河合優実さん演じる)桜田と一番繋がっている部分の言葉だけを使うなど、工夫をしました。
安田アナ:(会場に向けて)原作小説を読んだことがある方はいらっしゃいますか。皆さん、やはり楽しみにしてくださっていたのですね。この映画の原作はお笑いコンビジャルジャルの福徳秀介さんが書いた小説です。そして大九監督が監督と脚本を手がけていらっしゃいます。
──Q:原作にはラブコメのような印象を受けたのですが、映画は、感情に強く訴えかけます。原作とあえてトーンを変えている箇所に関して、監督はどのようにお考えでしょうか。
大九監督:小説の方は、一言で言うとすごくボーイミーツガールな小説であると思います。少年の視点でどんどん進んでいくんですね。先ほどのおばあちゃんの話もそうですが、出会った女の子がどのように見えているかということも、すべて少年の目を通して描かれるのが小説です。私はあの小説を読んだ時に、そのボーイミーツガールのガール側にも人生があり、輝きがある、ということを置いてきぼりにしてそのまま描くことはできないと思い、ガール側を増幅させていった結果、このようになりました。
──Q:ポスターデザインにもある”傘”が重要なキーワードとなっていましたが、監督が込めた意味を教えていただきたいです。
大九監督:これは、原作で、主人公が人目を気にしていることを象徴するアイテムとして出てくるものだったので、映画でも使ってみようという試みでしたが、映像では主人公の顔に影がかかってしまって。通常、雨のシーンを撮影する際には、顔に影響が出ないような薄い色のものや、何か意味を持たせた暗い色のもの、など使い方を色々と考えるのですが、今回はあえて影が出るものを選ぼうと思い、使いました。
影の話で思い出しましたが、今日はスタッフが2人来てくれたので、紹介していいでしょうか。撮影カメラマンの中村夏葉さんと、影を作ってくれた照明の常谷良男さんです。質問のおかげで思い出せました。
安田アナ:長台詞のシーンは、もちろん俳優さんの力もありますが、カメラワーク、照明、本当にみなさんの腕の見せどころだったのではないでしょうか。それぞれ長いセリフがありますが、覚える際のエピソードや撮影の雰囲気を教えてください。
大九監督:そうですね。特に(伊東 蒼さん演じる)さっちゃんは、屋外で天候に左右されながら撮影するシーンだったので、 すごく苦労をかけたなと思いました。本人も役の年齢に近いので、どうしても気持ちが高まってしまいポロポロと泣いていて、 撮影するのが残酷な気持ちになりました。
──Q:原作のエッセンスの抽出の仕方、芯の増幅させ方、もしくはそぎ落とし方についてお伺いしたいです。
大九監督:一言で言うと、原作を読んでいて「私、ついていけない」という気持ちになったんです。 そこで、原作者の福徳さんと少しお会いしたいと思い、珍しいのですが、脚本を書く前に一度だけお会いしたんです。その時に率直に思っていることを伝えて、映画のラストについて提案したのですね、そうしたら「僕もそれでいいと思います。」と言っていただきました。あまり深くは話し合いませんでしたが、多分考えていることが同じなのかなと思って。
この映画の2人の将来が原作のようになるかは、私は保証できないですし、一番原作と違う部分では、小西が言う台詞があります。若い時にした経験が小西のこれからにどう影響するのかは、私にわからない。だから、将来なんてそんなにやすやすと描けないと思いました。
──Q:河合さんと萩原さんはどのような経緯でキャスティングされたのか教えてください。
大九監督:普段は、プロデューサーが何人かの名前を挙げてくれて、その中で誰が良いと言って決まっていく形が多いのですが、今回は、2人とも過去にご一緒したことがあり、2つ返事で決まりました。
──Q:さっちゃんのあるシーンでは、引きの画で顔が暗く映っており、最初は表情が見づらくなっています。その後ズームしていく時にふわっとオレンジの光が当たるのが少し不自然に思えたのですが、そこには何かの意図があるのでしょうか。
大九監督:シナリオ上で、さっちゃんが1歩近づいて光が当たるという描写を事細かに書いており、それを照明の常谷さんに読んでもらって光を設計しました。 おっしゃる通り不自然な光ではありますが、街灯の光や家からこぼれている光の下でさっちゃんが動く中で、 現実にある光と親和性を持たせるようにしたシーンです。
安田アナ:監督、それでは、最後に一言皆様にお願いします。
大九監督 :興味を持ってたくさんご質問いただけて嬉しいです。ありがとうございます。この後も多分近くでうろちょろしていますので、見かけたら声をかけてください。