2024.11.12 [インタビュー]
「私の映画にはコロンビア人の気質を意識的に組み込んでいきたいと思った」公式インタビュー『アディオス・アミーゴ』

東京国際映画祭公式インタビュー 2024年11月4日
コンペティション
アディオス・アミーゴ
イバン・D・ガオナ(監督/脚本・右)、ウィリントン・ゴルディジョ・ドゥアルテ(俳優・左)
アディオス・アミーゴ

©2024 TIFF

 
1902年、コロンビアの内戦“千日戦争”末期。革命軍のアルフレッドは、消息を絶っている兄に息子の誕生を知らせるためカモチャ渓谷に向かう。旅の途中で、父の仇を探すアマチュア写真家をはじめ、さまざまな人と出会い、旅は予断を許さないものになっていく…。
コロンビア出身のイバン・D・ガオナがマカロニウエスタンのスタイルで豪快に描きつつ、戦争、階級格差、友情を浮かび上がらせる、アクション・エンターテインメントである。
 
 
──『夕陽のガンマン』を彷彿とさせるような内容ですね。
 
イバン・D・ガオナ(以下、ガオナ監督):1970年代に、教会の壁に投影して回る巡回映画館が故郷にたくさん来て、メキシコ革命を題材にしたアメリカの西部劇をよく上映していました。
父親が好きでよく観ていていたのですが、当時は西部劇というジャンルも知りませんでした。映画を学び始めた頃にセルジオ・レオーネなどを知り、「パパが観ていたものだ!」と思いました。知らないうちに自分の中に取り込まれて、嗜好が西部劇に向いたのだと思っています。私の出身地のサンタンデール県は荒々しい人たちが多いので、気質が西部劇に似ているようにも感じます。
アディオス・アミーゴ
 
──どのような経緯でこのストーリーを映像化しようと思ったのでしょうか。
 
ガオナ監督:2015年から2016年にかけて、“Pariente”という作品をドゥアルテさんと一緒に撮りました。その時はサンタンデール県グエプサの、プロではない人たちをキャスティングしました。その経験が感動的で面白く、もう一本映画を作りたいと思いました。そこで、現実からかけ離れた冒険もので、コメディ要素もあり、歴史的でもある作品を企画しました。
 
──それがこの作品に結実したのですね。
 
ガオナ監督:サンタンデール県は100年前、1900年に市民戦争がありました。戦争が終わった時にみんな戻るべき場所が分からなくなって、孤児のような境遇になってしまいました。そのことを描きたくて、前作と同じ人たちに声をかけ、西部劇的な要素やコメディの要素も入れて成立させた映画です。
 
──この物語に出演されてどう思いましたか。
 
ウィリントン・ゴルディジョ・ドゥアルテ(以下、ドゥアルテ):役をもらえるということはそれだけで感動的なのですが、主演となると格別です。最善を尽くすしかない、大変な仕事でした。
アディオス・アミーゴ
 
──ユーモアがあり、エンターテインメント色が強いと思いましたが。
 
ガオナ監督:20年前にコロンビアに新しい法律ができて、国内で若い人たちが映画を作れるようになりました。若い世代はかなりヨーロッパ映画の影響を受けていて、自分たちの中にある問題や家族の問題などを個人的に描く作品ばかりでした。
やがて、そういったコロンビア・ニューシネマはつまらないという声が出てきてしまったのです。実は現実を反映していなかったのですね。私は作品にコロンビア人の気質を意識的に組み込んでいきたかった。友情や政治の見方を、冒険というコードを使って表現したかったし、ユーモアも意識して入れたかったのです。
 
──20年前のニューシネマ運動以前は、映画を作りにくかったということですか?
 
ガオナ監督:もともとは政府機関が1年に1〜2本しか映画に出資していなかったのです。テレビ局が映画を作ったりもしたのですが、資金難の上に収益も上がらず、製作は困難でした。
その後、フランスからのアプロ―チで、彼らの法律をもとに似たような法律ができました。そうしたら、金銭的に資金が集めやすくなりました。誰かが映画館に行けば、10%が基金に入るというシステムです。映画館側にも税金がかかり、その税金をもとに出資できるようになりました。編集の自由があるというところも大きかったと思います。
 
──監督にとってはこれが何作目ですか? コロンビア映画はだいたい年間何本くらい作られているのでしょうか。
 
ガオナ監督:長編映画だと“Pariente”という映画と、今回の『アディオス・アミーゴ』。それから、このまえ長編を一本撮り終わったばかりなので3作。テレビのシリーズを2作、短編は10本くらいです。
コロンビアの映画は現在、年間57本程度が製作されていますが、20年前は4本だったのですよ。現在では映画1本につき観客は1万人くらいしか足を運んでもらえません。今後そうした状況が変わるといいなと思っています。
 
──そんな状況の中で俳優も大変だろうと思うのですが。
 
ドゥアルテ:監督の言うように、映画が増えている時代なので役者が増えすぎているというのはあると思います。
 
ガオナ監督:じつは、彼は役者の仕事がメインではないのです。ラテンアメリカはこの20年間、テレビのメロドラマが盛んに作られるようになったのですが、映画はなるべく現実的なものを描く傾向にあります。そこで、役者としての訓練を受けてきたドラマチックな演技をする人ではなくて、演技を学んでいない人たちを起用して映画を作るという動きが非常に多いのです。
ただそういう素人の役者に、過剰な夢を見させてしまって人生を棒に振らせるようなことも多くあります。こんなこともあんなこともできるようになるよ、といった偽りのイメージを売るような。
私たちは、そういったことにならないよう、過程も大事にします。実際、彼はトラックの運転手で自分の会社を持っています。映画としての最終的な結果よりも、そういった部分も含めてのプロセスを大事にしています。
 
──そういう監督の姿勢は、コロンビア映画では珍しいのですか?
 
ガオナ監督:みんなが映画館に行かないこういう時代、自問自答するのです。誰のために、何のために映画を作っているのだろうって。3年かけて1万人しか観ないのだったら、何も役に立ってないのじゃないか、無駄なんじゃないかという気持ちにもなります。ただ一方で、小さい村には劇場がなかったり文化施設がなかったり、何もエンターテインメントがないので、そういうところで映画を作ることによって、何か空洞を埋められるのではないかという希望も持っています。
映画を作るときにワークショップをやって、リハーサルも行う。ダンスであったり歌であったり、様々な人が色々なものを発見できる。そのプロセスが大事なわけです。
例えば、私たちが撮影をする場所にはガスや水道が通ってなかったりする。でも、映画を撮影するお金を使って役に立てるかもしれない。映画を作るなかで、映画だけではなくもうひとつほかに考えることがあるのです。
映画にお金を使うことによってこの地域に何かもたらすことができる。映画を作ることで何か変化が起こせるのであれば、それは意味のあることではないかと思います。
 
アディオス・アミーゴ
 
 

インタビュー/構成:稲田隆紀(日本映画ペンクラブ)

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