2024.11.12 [インタビュー]
「僕の映画に参加してくれたスタッフには言葉より心で伝えました」公式インタビュー『海で泳げない鯨』

東京国際映画祭公式インタビュー 2024年11月5日
アジアの未来
海で泳げない鯨
ワン・ディー(監督/脚本/編集・左から2番目)、シュー・ルイジン(プロデューサー/製作総指揮・右から2番目)、ジュー・ツォンラン(俳優・左)、イェ・ジャオユエ(俳優・右)
海で泳げない鯨

©2024 TIFF

 
ある町をふらりと訪れた若者は、カメラを抱えた若い女性と出会う。小さな宿に滞在するふたりは周辺を散策しながら時間を過ごし、幻想的な夢を語る。特別な出来事が起こらぬまま、やがて別れが訪れる――。
中国の少数民族、トゥチャ族出身の27歳、ワン・ディーが生み出す映像は、光、水、火、風の元素的イメージと野心的な構図、長回しのカメラワーク、さらには極端に少ないセリフなどチャレンジ精神に富んでいる。3時間の上映時間に圧倒される仕上がりだ。
 
 
──3時間の大作で、セリフが少ない構成。これは最初から意図されたのですか。
 
ワン・ディー(以下、ワン監督):最初は風、雨、雷といった自然の要素を入れるつもりではなかったのですが、撮影現場の環境や条件を見て少し変更しました。カメラマンや美術の担当者と意見交換をして、自然条件に合わせる形に変えました。
海で泳げない鯨
 
──どのように脚本を作ったのですか。
 
ワン監督:男性の主人公は自分自身の経験に基づいています。少し脚色していますが、私自身が口数の少ないタイプなので、それに近づける形にしました。私は静かにしているのが好きで、 道路を歩いていても部屋にいても、その空間が自分のものになると思えるのです。観客にもその空間を自分のものにしてほしいと考えました。
 
──映画制作では口数が少ないと大変だと思いますが?
 
ワン監督:参加する人には言葉より心で伝えました。初めて会った時から、映画のことではなく自分の生活について語り、感じたことや心の内のことを話し合うのです。
 
──そのときは能弁にお話されるのですか?
 
ワン監督:話が止まらなくなります(笑)。初めてカメラマンに会った時も、映画の話なんか全くせず、一晩中お酒を飲んで自分の気持ちや過去の経験の話をして理解し合いました。
 
──それが監督の演出法ですね。制作時はどのようにスタッフに説明するのですか?
 
ワン監督:この作品に参加した人たちは、スタッフも含めてみんな初めて一緒に制作をしました。皆、何が起きるかよく分かっていない。 何がどうなっているのかも、どんな作品になるのかというのも分からないまま参加したのです。
 
──脚本はないのですか?
 
ワン監督:通常のいわゆる脚本のようなものはなく、80シーンだけの脚本です。そのシーンも人の動きとか雰囲気だけで、セリフはほとんど書かれていません。役者にとっては曖昧だったと思いますが、そのぶん、自由度が多くて自分を発揮できる。みんなアーティストなので、クリエイティブな発想はできると信じていました。
 
──こういうタイプの作品をプロデュースされるにあたって、ご苦労はありましたか。
 
シュー・ルイジン(以下、シュー):チームに対しては強い信頼がありました。監督とは20代初めの頃に知り合っていますが、彼は必ず最後までやり遂げると思っていました。彼が撮るというならどんな作品でも引き受けます。
海で泳げない鯨
 
──そこまで惚れこんでいるわけですね。今後もプロデュースされますか?
 
シュー:はい、もちろんです。続けてプロデュースしていきます。今回、日本に来てワールドプレミアの 2日前に、次の中編の制作を決めました。
 
ワン監督:日本が好きで、日本の芸術や文化の影響を受けています。今度、東京で脚本を作って実現したいと思っているところです。
 
──俳優の方々は監督の脳内世界に入り込んでいく感じだったと思いますが、演じていて戸惑いはありましたか?
 
ジュー・ツォンラン(以下、ジュー):確かに最初は少し戸惑いました。この作品は私の初めての長編作品です。まずは監督を理解したいと思い、一時期一緒に生活をしていたので、撮影ではリアルな感覚を感じられました。
海で泳げない鯨
 
イェ・ジャオユエ(以下、イェ):私も初めは戸惑いがありました。ただ、監督は本当にみんなを信じてくれる人なんです。信じて自由を与えてくれる。そして私たちを尊重してくれました。私たちは自由に意見を出すし、カメラや美術や、参加している全員が明日の撮影について相談し合う。みんなで力を合わせて良いものを作ろうという雰囲気がありました。アクションの声がかかると、 自分がその雰囲気にどっぷり浸るんです。そうして出てくる刺激に対して普通に反応するだけでした。
海で泳げない鯨
 
──演じているのではなくて、ある種の自分自身が出てくるということ?
 
イェ:そうです。
 
──監督は少数民族の出身であると書かれていました。象徴的に扱われる、水や火などの原初的なアイテムは少数民族出身であることに関係していますか?
 
ワン監督:少しは関係あるかもしれません。私はトゥチャ族の出身ですが、トゥチャ族というのは中国にある何十種類もの少数民族のひとつです。それぞれの少数民族が自然とのつながりを重視していると思います。漢族との交流が増えるにつれて少しずつ変わってきましたが、今の時代になっても自然とのつながりというのはずっと持っていたいと思っています。
 
──監督が最も影響を受けた監督は誰ですか?
 
ワン監督:寺山修司からはスタイルの影響を受けました。あと、ツァイ・ミンリャン。アピチャッポン・ウィーラセタクンはとても素晴らしいと思います。ただ、そのなかでも寺山修司の作品はアート作品として群を抜いています。全体的な審美眼やスタイルの影響を受けています。
 
海で泳げない鯨
 
 

インタビュー/構成:稲田隆紀(日本映画ペンクラブ)

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