2024.11.12 [インタビュー]
「ヒロインに関しては、最後に全ての気持ちを吐き出すという構成にしました」公式インタビュー『春が来るまで』

東京国際映画祭公式インタビュー 2024年11月5日
アジアの未来
春が来るまで
アシュカン・アシュカニ(監督/プロデューサー/脚本・右)、サハル・ソテュデー(俳優・左)
春が来るまで

©2024 TIFF

 
夫の自殺を知った妻サマンは、事態が信じられず受け入れることができない。周囲の人々と接していても、夫が生きているかのようにふるまう。彼女はどのように過酷な現実と向き合うのか。
この映画を監督したアシュカン・アシュカニは、繊細なタッチでヒロインの行動をとらえていく。撮影監督としても知られるアシュカニが3年以上の歳月をかけて、ヒロインの20時間の軌跡を映像化して見せた。街をさすらうヒロイン、サハル・ソテュデーの表情が強い印象を残す。
 
 
──最初に、この作品を育んでいったプロセスを教えてください。
 
アシュカン・アシュカニ(以下、アシュカニ監督):コロナ禍の頃でしたが、 ある朝ネットに1枚の写真が上がりました。石油会社の労働者が石油パイプで首を吊って自殺した写真でした。その写真が目に焼き付いて、頭の中から消えなくなりました。残された人たちは今どういう気持ちでいるのだろうか。それについて何か書きたいと思ったのです。
サハルも脚本を書くので、アイデアをシェアして、この話に仕上げました。
春が来るまで
 
──ヒロインは夫の死を認めず彷徨い、最後に初めて彼女の感情が明らかになる。 構成はふたりでお考えになったのですか?
 
アシュカニ監督:24時間の彼女の痛みを見せるために言葉を消し、口に入れるもの、例えば水や食べ物も消しました。最後の最後まで彼女は何も口に入れないし、ほとんど喋らない。最後に全ての気持ちを吐き出すという構成は、最初から考えていました。
 
──脚本においてどういう役割をされたのですか。
 
サハル・ソテュデー(以下、ソテュデー):アイデアとメインのストーリーラインは、すべて監督によるものですが、彼女と家族、彼女と友達の会話のディテールは私のアイデアです。実際に自分が人と会ってどういう会話をするかをメモして、監督に渡しました。監督はそれを取捨選択して判断するのです。
春が来るまで
 
──そういう仕事の仕方は初めてですか?
 
ソテュデー:私は3本の短編の監督と、脚本を務めたことがあります。ただ長編映画は初めてでした。監督には、私が最初の短編映画を作る時に手伝ってもらいました。
 
アシュカニ監督:私は撮影監督でもあるので、彼女の作品では撮影を担当しプロデュースもしました。10年前からのつきあいです。
 
──街中のショットがすごく印象的だし細やかです。撮影監督ならではの感性だと思いました。
 
アシュカニ監督:今回は監督に専念したかったので、基本的にはカメラマンに撮ってもらいました。もちろんモニターでチェックしますし、「こういうふうに撮って」と要求しますが、実際に撮影したのはカメラマンたちです。
 
──監督に転身されたわけですか。
 
アシュカニ監督:若い頃は監督になりたくて、短編を監督して映画界に入ったのです。短編を編集したら編集が上手くなりました。編集をやりながら撮影もしたら皆に撮影が上手いと言われて、少しずつ撮影の道から出られなくなって…。
やっと今、自分の映画を監督できたというわけです。これからも撮影もやりますが、自分の夢でもある監督を続けていこうと思っています。
 
──この作品を監督されたのは?
 
アシュカニ監督:コロナの時期、仕事面や様々なことのアップダウンが激しかったのです。朝起きたらまた違うことが起きたり、状況が変化したりする。あの石油労働者の写真を見て以来、映画にしたいという気持ちはありましたが、こういう世の中の変化は自分にとても影響してしまうので、撮るなら今のうちに取り掛からなくてはと思いました。
今は世の中のスピードがとても速いですよね。ちゃんと考えて人と会ったり、座ってゆっくり時間を取って、人と繋がることがないのですね。だから、もっと時間の余裕を観客に与えたいなと思いました。せめて自分の映画を見ている時は、時間を使ってキャラクターと歩んで、ゆっくりと自分の気持ちと向き合ってもらえる、そういうものを作りたいと思ったのです。そんな映画は成功しないかもしれないとも思いましたが、受けなくてもいいからこの作品を作ろうと思いました。
 
──ヒロインを考えたときに、まず彼女だったのですか。
 
アシュカニ監督:彼女が監督を務めた映画に関わっていたので、性格をよく分かっていますし、彼女は舞台役者としての経験もあって実力があります。彼女だったら、自分が言いたいことを演じてくれると思いました。
加えて、映画の制作は3年間もかかったのです。予算的に撮れなくて、何か月か経ってからワンシーンを撮ったりしたので、ほかの役者なら無理でしたね。映画の最初と終わりは決めていましたが、真ん中は撮りながら考えていました。辛抱してくれるのは彼女しかいないと思いました。
 
──主演女優として、監督のやり方についてどう思いましたか?
 
ソテュデー:自分の作品を手伝ってくれた彼だから我慢しました。ほかの監督だったらもう辞めていたかもしれないですね(笑)。
ただ彼は、自分がやっていることを信じている、じゃあ私も信じようと思いました。彼の腕も知っているし、どういう絵を撮るのかも分かっていますから大丈夫だと思っていました。
 
──この作品では、演技で表現する手段が表情だけですよね。これは女優としてはすごくチャレンジなこと?
 
ソテュデー:難しかったです。叫ぶ、泣く、笑う、という演技の道具を全部消してしまうと、どうやって表現すればいいのか分からなくなるのです。特にこのキャラクターは、無表情で気持ちを表さないといけない、それがすごく難しかったですね。
 
アシュカニ監督:役者は大変だったと思います。3年間同じ体重、同じ髪の色、同じ表情でなければいけなかったのですから。
 
春が来るまで
 
 

インタビュー/構成:稲田隆紀(日本映画ペンクラブ)

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