2024.12.03 [更新/お知らせ]
エシカル・フィルム賞審査委員長の齊藤工による受賞作品『ダホメ』評

ダホメ
 
フランスからベナンへ、かつてのダホメ王国の文化遺産7000点の中から26点の美術品が返還されるところから始まる本作は、”26番”の彫像の目線、モノローグで語られる物語である。
しかし68分の本作の大半はベナンの若者達がこの返還についての討論会のドキュメントになっていて、観客はそれをただ見守る彫像の視点の様な風変わりな映画体験を味わった。
セネガルの巨匠、ジブリル・ジオップ・マンベティの姪っ子でもある本作の監督マティ・ディオプはカンヌ国際映画祭にてグランプリを得た2019年の『アトランティックス』でもセネガルの大西洋沿い海辺を舞台に貧富の差を描きながら突如ホラーファンタジーの様な展開になったり、予想の出来ない独特な文法の作家性なのかも知れない。
更に本作『ダホメ』が今年のベルリン国際映画祭にて金熊賞を取っている所からすると、ディオプ監督の国籍がフランスとフランスの占領下だったセネガルである事からも、狭間の目線を持って言及して行く、彼女にしか描けない唯一無二な世界に圧倒され、ある種の真新しい説得力を持ち合わせているからでは無いだろうか。
然し乍ら『ダホメ』の主となる白熱したベナンの若者達の討論会は興味深く、彼ら彼女らの多くがディズニーを観て育ち、自国の歴史をあまり知らず、略奪された事も、有形文化遺産が外にある事も知らなかったと言う。かたや今回の返還に従事したタロン大統領を評価する意見もあるが、大半が今更7000分の26点は屈辱だとも言う。
ベナンの若者の自国の未来を見据える視点は鋭く、本作に出逢った以上、ベナン共和国の今後に注目せざるを得ない。
そして多くの観客は”そのディベート”を26番の彫像の複雑な心情として受け止めるのだ。
果たしてこれは”映画”なのだろうか?と言う気持ちさえ浮かぶ。
同時に、映画は先進国の富裕層の娯楽と言う現実が重なる。
芸術はとどのつまり受け止める側の環境がモノを言うのだと。
私事だが、かつて仕事で訪れたマダガスカルで移動映画館を開催しようとした事があるが、そもそも映画文化の存在を知らない子供達に何を観てもらうべきなのか、問答した挙句、自分達と掛け離れたモノでは無く、身近に感じて貰うために、子供達と共に自主映画を作り、それを編集して翌日観て貰った。
カメラを向けられた子供達は照れながらも、歌にダンスに自分を表現してくれた。
初めての映画上映を観ながらも子供達は楽しそうに歌っていた。
これこそ無形文化財なのだと感じた。
本作がTIFFのエシカルフィルム賞のグランプリになった経緯、我々の審査会の様子はTIFFの公式HPに記載されているので、是非ともご覧頂きたい。
個人的には当初別作品を推していたのだが、ディオプ監督の狙いなのか、彫像の嘆きなのか、『ダホメ』が我々のディベートの中で最も相応しい作品だと成り上がって行く。
そうやって観終わった後に観客の中で育って行く映画こそ映画らしさなのかも知れない。
 
「アフリカ映画は日本では当たらない」と言う定説を『ダホメ』が覆えす事を密かに願う。
 

齊藤 工

 
齊藤 工

©2024 TIFF エシカル・フィルム賞授賞式での齊藤 工さん

 
 
第37回東京国際映画祭 ワールド・フォーカス出品
東京国際映画祭 エシカル・フィルム賞受賞作品
ダホメ
監督:マティ・ディオップ
上映情報

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