エシカル・フィルム賞は、映画を通して環境、貧困、差別といった社会課題への意識や多様性への理解を広げることを目的として昨年新設されました。本年度エントリーされた新作の中から「人や社会・環境を思いやる考え方・行動」という「エシカル」の理念に照らしてノミネートした3作品の中から、受賞1作品を選出します。
関連ニュース:
2024/11/5:→ エシカル・フィルム賞は『ダホメ』に決定 審査委員長の齊藤工「新鮮な映画文法」と絶賛
2024/11/6:→ 齊藤工が語る“エシカル”の役割とは? 言葉のひとり歩きには「危険だなと感じることも」エシカル・フィルム賞授賞式
審査委員会
審査委員長:齊藤 工(俳優・映画監督)
齊藤 工 コメント
ありがとうございます。
“エシカル”と言う言葉を調べてみると「法律などの縛りがなくても、みんなが正しい、公平だ、と思っていること」との事でした。そんな現代のエシカルに多少の窮屈さも感じると共に、映画の歴史を振り返ると、まさにこうやって各時代時代で作品を受け取る人達が、形の無い映画的倫理観を形成して未来に繋げて来たのも事実だと思います。映画はエンターテインメント。毎年観客として足繁く通っているTIFFに、今回も肩肘張らず、一観客として映画の未来との出逢いを愉しみにしております。
プロフィール
『昼顔』『シン・ウルトラマン』など、話題作へ多数出演。配信中のNetflix「極悪女王」、10月よりTBS日曜劇場「海に眠るダイヤモンド」に出演する。
映像制作にも積極的に携わり、初長編監督作『blank13』(18年) では 国内外の映画祭で8冠を獲得。昨年は最新作『スイート・マイホーム』も公開され、今冬公開予定のドキュメンタリー映画『大きな家』(24年)やダニー・トレホら出演のハリウッド映画『When I was a human』(公開日未定)ではプロデューサーを務めている。また、被災地や途上国での移動映画館cinéma bird主宰、Mini Theater Park、撮影現場での託児所プロジェクト、白黒写真家など、活動は多岐にわたる。
審査委員:第37回東京国際映画祭 学生応援団
佐々木湧人(筑波大学大学院1年)、縄井 琳(国際基督教大学大学院1年)、河野はな(慶應大学3年)
・10/11更新:→ 学生応援団審査委員3人が選ぶ「エシカルな映画3本」はコチラ
・11/08更新:→ 学生審査委員に市山プログラミング・ディレクターが解説「審査ってこんな感じ」はコチラ
本年度ノミネート作品(3作品)
第37回東京国際映画祭 ワールド・フォーカス部門出品
『
ダホメ』
Dahomey (ベナン/フランス/セネガル)
2024/68min/English, French, Fon
監督:マティ・ディオップ
西アフリカのベナン共和国にかつて存在したダホメ王国から、フランスに接収された美術品が返還される過程を追い、植民地主義について考察するドキュメンタリー。ベルリン映画祭金熊賞受賞。
第37回東京国際映画祭 ワールド・フォーカス部門出品
『
ダイレクト・アクション』
Direct Action (ドイツ/フランス)
2024/212min/French, English, Arabic
監督:ギヨーム・カイヨー、ベン・ラッセル
フランスで最も注目を集める過激な環境保護活動家たちのコミュニティと、その周辺の人々を記録したドキュメンタリー。ベルリン映画祭エンカウンター部門で最優秀作品賞を受賞した。
第37回東京国際映画祭 アニメーション部門出品
『
Flow』
Flow (ラトビア/フランス/ベルギー)
©Dream Well Studio, Sacrebleu Productions & Take Five.
2024/85min/No dialogue
監督:ギンツ・ジルバロディス
本年度アヌシー国際アニメーション映画祭審査員賞、観客賞ほか4冠受賞!一匹の猫が見つめる洪水に見舞われた世界を、圧倒的なスケールと臨場感で描き出す。
エシカル・フィルム賞 受賞作品発表・授賞式・トークセッション:
日程:11月5日(火)13時30分―15時(13時受付開始)*予定
会場:東京ミッドタウン日比谷 1F LEXUS MEETS․․․
⇒アクセス
出席者:齊藤 工(審査委員長)、学生応援団(審査委員)
受賞作品発表・授賞式に引き続き、審査委員長の齊藤 工さんが登壇するトークセッションを実施します。
*一般観覧は、事前に当選通知をお送りした方のみ可能です。一般来場者の方の当日の入場はできませんのでご注意ください。
*トークセッション会場ではノミネート3作品『ダホメ』『ダイレクト・アクション』(以上ワールド・フォーカス部門)『Flow』(アニメーション部門)の上映はありません。ノミネート作品の鑑賞をご希望の方は、作品の上映スケジュールを確認の上、一般上映で鑑賞ください。
応募要項
募集人数:20名様(応募多数の場合は抽選)
募集期間:
9月25日(水)~10月10日(木)23:59まで
・10月15日(火)(予定)メールにて、当選者のみに当選通知をご案内いたします。
*応募期間は終了しました。多数のご応募ありがとうございました。
エシカル・フィルム賞の審査委員3人が選ぶ「エシカルな映画3本」
「エシカルな映画」って何だろう。エシカル・フィルム賞の審査委員を務める学生応援団の3人が「エシカル」への理解を深めるために取り組んだ「私が選ぶエシカル映画3本」と3人のコメントを紹介します。
学生応援団・佐々木湧人の3本
『
荒野に希望の灯をともす』
監督/撮影:谷津賢二(2022年、日本)
アフガニスタンやパキスタンで35年、活動した医師の中村哲さんのドキュメンタリー。 目の前にいる人をただ救いたいっていう思いだけで自分の人生を貫いてきた中村哲さんの生き様自体が、エシカルを体現しているなと感じました。
『
わたしは、ダニエル・ブレイク』
監督:ケン・ローチ(2016年、イギリス/フランス/ベルギー)
2016年カンヌ国際映画祭のパルムドール受賞作。主人公ダニエルと同じ苦しみを持つシングルマザーのケイティはともに社会的に厳しい状況なのに、お互いに助け合う。この映画も、目の前の人を救うっていう気持ちが前面に出ていました。
『
マイスモールランド』
監督/脚本:川和田恵真(2022年、日本/フランス)
在日クルド人として生活していた女子高生のサーリャがある日、在留資格を失い、苦しい生活になっていく中で、日本の移民への対応といった社会問題が見えてきます。でも問題だけじゃなくて、希望も見えるような作品でエシカルだと思いました。
学生応援団・縄井 琳の3本
『
ザ・トゥルー・コスト ~ファストファッション 真の代償~』
監督:アンドリュー・モーガン(2015年、アメリカ)
2013年、バングラデシュの縫製工場で起きた事故をきっかけに、ファッション業界の裏側に迫ったドキュメンタリー。自分が服を安く消費する裏で、労働者が搾取されていたと知って、人権に対する考えや自分の消費行動をすごく変えた映画になりました。
『
PLAN 75』
監督:早川千絵(2022年、日本/フランス/フィリピン/カタール)
75歳以上が自分の生死を選択できる制度が施行された近未来の日本のお話です。 安楽死をする選択肢を与えられた状況で、自分の倫理観みたいなものに疑問を投げかけられるような映画でした。
『
人間の境界』
監督:アグニエシュカ・ホランド(2023年、ポーランド/フランス/チェコ/ベルギー)
ベラルーシ政府がEUに送る難民を、ポーランド国境警備隊は送り返そうとします。シリア人難民や住民、警備隊、支援活動家、それぞれの視点で同じ物語が描かれていて、何か答えがあるわけではないのですが、現状をどう受け止めるかということを問われた作品でした。
学生応援団・河野はなの3本
『
転校生』
監督:大林宣彦(1982年、日本)
今ではオーソドックスな描き方である “男女の心と体が入れ替わる” という設定を通じ、1982年の時点で性別違和や既存の性役割観について考えさせてくれた映画です。大きな「アイデンティティ」を扱ったエシカル映画だと思います。
『
正欲』
監督/編集:岸善幸(2023年、日本)
「多様性」という大枠の便利さに甘えていました。自分の想像を超えたところに想像を超える数のマイノリティが存在します。ある面から見ればマイノリティである私自身も、むしろ圧倒的マジョリティ側にいることを実感させられました。
『
隔たる世界の2人』
監督:トレイボン・フリー、マーティン・デズモンド・ロー(2020年、アメリカ)
あらゆる差別の現場、加害者は自身にとってずっとその立場にいた被害者の気持ちを慮ることはできません。自分以外の人間には決してなれない人生の中で、「あなたが想像する世界の外にこんな人たちがいます」と伝えてくれるエシカル映画は重要な意味を持つものなのだと改めて気付かされました。
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学生審査委員に市山プログラミング・ディレクターが解説「審査ってこんな感じ」
2024年度の審査委員長は俳優・映画監督である齊藤 工氏、審査委員は東京国際映画祭・学生応援団から選抜された3人が務めます。3人とももちろん、映画祭の審査委員を務めるのは初めてです。審査会に先立ち、海外の映画祭での審査員経験も豊富な市山尚三 東京国際映画祭 プログラミング・ディレクターによるブリーフィングがオンラインで開かれました。
市山プログラミング・ディレクター「お、面白い」が基本
市山プログラミング・ディレクター(以下:
市山PD)は「基本は観て、『お、面白い』と思った映画を選んでいます。特に基準があるわけではないんです」と話し始めました。基準は…ない?少し戸惑った表情の3人です。
市山PD:映画としてよくできている作品もあれば、映画としてはあまりよくできていないけれど、驚くような撮り方だった作品も選びます。完成度が高くて選ぶ映画もあれば、完成度は低いけどこの監督は面白そうだからと選んでいる作品もあります。焼き直しではなく、驚きや新鮮さがある映画を結果的に選んでいます。
審査はそれぞれの価値観
市山PDによると、審査員を務めた映画祭で「こういう視点で審査してくれと言われることはあまりない」とのことです。 基本は審査員それぞれの価値観に委ねられます。
とはいえ演出や撮影といった項目ごとに点数を書く紙が配られる映画祭もあったそうです。
市山PD:演出は5点満点で5点とか、撮影は3点とか、演技は2点とか。でも審査員が誰1人それに書いてなかったんです。
審査委員会では審査委員が「どの作品が賞に値するか」という話をします。誰も言わない作品が選外になり、最後に、どれを選ぶか話し合いが進みます。
市山PD:もちろん項目ごとに点をつけて、総合点でこれが1位と考える人がいてもいいとは思いますが、点をつける必要は特にないです。なぜその映画を推すのかとという理由を話して、議論します。
意見が割れ、最終的に多数決になるケースもあるそうですが「じっくり話し合い、合意するのが審査会としては理想的ではないか」と話しました。
「なぜドキュメンタリー2本?」「前知識は」「基準は」質問
学生応援団:佐々木湧人
学生応援団:縄井 琳
学生応援団:河野はな
審査委員の3人からの質問もありました。佐々木さんは「エシカル賞のノミネート作品を選ぶ上で、 基準があってドキュメンタリーを選んだのか、たまたま選んだ作品がドキュメンタリーだったというところだったのでしょうか」と候補作品の選出について尋ねました。
市山PD:2本とも非常に大きな衝撃と驚きがあった作品なので、その結果、ドキュメンタリー2本になったというような感じですね。
縄井さんは「鑑賞後に監督や映画の背景といった追加情報を得ると、その映画に対する見方がかなり変わることがあります。事前に監督のインタビューなどを見聞きするのはどうでしょうか」と前知識の是非について質問しました。
市山PD:情報として知るのは全然、構わないとは思いますが、研究のために見るということはしない方がいいと思います。審査員によっては一切、前知識を入れないっていう人もいます。
河野さんは「3作品のそれぞれに感銘を受けると思う。選ぶ際には最終的に自分の直感にすべきか、 学生っていう立場によるか、新鮮なものにすればいいのか…。審査基準があったら教えていただきたいです」と基準について尋ねました。
市山PD:エシカル・フィルム賞を出すことで映画をサポートしたいという思いで選べば、直感でもいいと思います。もしかしたらエシカルの専門家であれば全然違う選択をするかもしれませんが、今回は専門家ではない審査委員会ですので、自分の感覚を信じていいんじゃないかなと思いますね。
映画の審査!と肩ひじ張らず、自身の感性で選ぶのが基本のようですね。審査委員長の齊藤工さんと、学生審査委員の化学反応も楽しみです。
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協力:
エシカル・フィルム賞は、映画を通して環境、貧困、差別といった社会課題への意識や多様性への理解を広げることを目的として昨年新設されました。本年度エントリーされた新作の中から「人や社会・環境を思いやる考え方・行動」という「エシカル」の理念に照らしてノミネートした3作品の中から、受賞1作品を選出します。
関連ニュース:
2024/11/5:→ エシカル・フィルム賞は『ダホメ』に決定 審査委員長の齊藤工「新鮮な映画文法」と絶賛
2024/11/6:→ 齊藤工が語る“エシカル”の役割とは? 言葉のひとり歩きには「危険だなと感じることも」エシカル・フィルム賞授賞式
審査委員会
審査委員長:齊藤 工(俳優・映画監督)
齊藤 工 コメント
ありがとうございます。
“エシカル”と言う言葉を調べてみると「法律などの縛りがなくても、みんなが正しい、公平だ、と思っていること」との事でした。そんな現代のエシカルに多少の窮屈さも感じると共に、映画の歴史を振り返ると、まさにこうやって各時代時代で作品を受け取る人達が、形の無い映画的倫理観を形成して未来に繋げて来たのも事実だと思います。映画はエンターテインメント。毎年観客として足繁く通っているTIFFに、今回も肩肘張らず、一観客として映画の未来との出逢いを愉しみにしております。
プロフィール
『昼顔』『シン・ウルトラマン』など、話題作へ多数出演。配信中のNetflix「極悪女王」、10月よりTBS日曜劇場「海に眠るダイヤモンド」に出演する。
映像制作にも積極的に携わり、初長編監督作『blank13』(18年) では 国内外の映画祭で8冠を獲得。昨年は最新作『スイート・マイホーム』も公開され、今冬公開予定のドキュメンタリー映画『大きな家』(24年)やダニー・トレホら出演のハリウッド映画『When I was a human』(公開日未定)ではプロデューサーを務めている。また、被災地や途上国での移動映画館cinéma bird主宰、Mini Theater Park、撮影現場での託児所プロジェクト、白黒写真家など、活動は多岐にわたる。
審査委員:第37回東京国際映画祭 学生応援団
佐々木湧人(筑波大学大学院1年)、縄井 琳(国際基督教大学大学院1年)、河野はな(慶應大学3年)
・10/11更新:→ 学生応援団審査委員3人が選ぶ「エシカルな映画3本」はコチラ
・11/08更新:→ 学生審査委員に市山プログラミング・ディレクターが解説「審査ってこんな感じ」はコチラ
本年度ノミネート作品(3作品)
第37回東京国際映画祭 ワールド・フォーカス部門出品
『
ダホメ』
Dahomey (ベナン/フランス/セネガル)
2024/68min/English, French, Fon
監督:マティ・ディオップ
西アフリカのベナン共和国にかつて存在したダホメ王国から、フランスに接収された美術品が返還される過程を追い、植民地主義について考察するドキュメンタリー。ベルリン映画祭金熊賞受賞。
第37回東京国際映画祭 ワールド・フォーカス部門出品
『
ダイレクト・アクション』
Direct Action (ドイツ/フランス)
2024/212min/French, English, Arabic
監督:ギヨーム・カイヨー、ベン・ラッセル
フランスで最も注目を集める過激な環境保護活動家たちのコミュニティと、その周辺の人々を記録したドキュメンタリー。ベルリン映画祭エンカウンター部門で最優秀作品賞を受賞した。
第37回東京国際映画祭 アニメーション部門出品
『
Flow』
Flow (ラトビア/フランス/ベルギー)
©Dream Well Studio, Sacrebleu Productions & Take Five.
2024/85min/No dialogue
監督:ギンツ・ジルバロディス
本年度アヌシー国際アニメーション映画祭審査員賞、観客賞ほか4冠受賞!一匹の猫が見つめる洪水に見舞われた世界を、圧倒的なスケールと臨場感で描き出す。
エシカル・フィルム賞 受賞作品発表・授賞式・トークセッション:
日程:11月5日(火)13時30分―15時(13時受付開始)*予定
会場:東京ミッドタウン日比谷 1F LEXUS MEETS․․․
⇒アクセス
出席者:齊藤 工(審査委員長)、学生応援団(審査委員)
受賞作品発表・授賞式に引き続き、審査委員長の齊藤 工さんが登壇するトークセッションを実施します。
*一般観覧は、事前に当選通知をお送りした方のみ可能です。一般来場者の方の当日の入場はできませんのでご注意ください。
*トークセッション会場ではノミネート3作品『ダホメ』『ダイレクト・アクション』(以上ワールド・フォーカス部門)『Flow』(アニメーション部門)の上映はありません。ノミネート作品の鑑賞をご希望の方は、作品の上映スケジュールを確認の上、一般上映で鑑賞ください。
応募要項
募集人数:20名様(応募多数の場合は抽選)
募集期間:
9月25日(水)~10月10日(木)23:59まで
・10月15日(火)(予定)メールにて、当選者のみに当選通知をご案内いたします。
*応募期間は終了しました。多数のご応募ありがとうございました。
エシカル・フィルム賞の審査委員3人が選ぶ「エシカルな映画3本」
「エシカルな映画」って何だろう。エシカル・フィルム賞の審査委員を務める学生応援団の3人が「エシカル」への理解を深めるために取り組んだ「私が選ぶエシカル映画3本」と3人のコメントを紹介します。
学生応援団・佐々木湧人の3本
『
荒野に希望の灯をともす』
監督/撮影:谷津賢二(2022年、日本)
アフガニスタンやパキスタンで35年、活動した医師の中村哲さんのドキュメンタリー。 目の前にいる人をただ救いたいっていう思いだけで自分の人生を貫いてきた中村哲さんの生き様自体が、エシカルを体現しているなと感じました。
『
わたしは、ダニエル・ブレイク』
監督:ケン・ローチ(2016年、イギリス/フランス/ベルギー)
2016年カンヌ国際映画祭のパルムドール受賞作。主人公ダニエルと同じ苦しみを持つシングルマザーのケイティはともに社会的に厳しい状況なのに、お互いに助け合う。この映画も、目の前の人を救うっていう気持ちが前面に出ていました。
『
マイスモールランド』
監督/脚本:川和田恵真(2022年、日本/フランス)
在日クルド人として生活していた女子高生のサーリャがある日、在留資格を失い、苦しい生活になっていく中で、日本の移民への対応といった社会問題が見えてきます。でも問題だけじゃなくて、希望も見えるような作品でエシカルだと思いました。
学生応援団・縄井 琳の3本
『
ザ・トゥルー・コスト ~ファストファッション 真の代償~』
監督:アンドリュー・モーガン(2015年、アメリカ)
2013年、バングラデシュの縫製工場で起きた事故をきっかけに、ファッション業界の裏側に迫ったドキュメンタリー。自分が服を安く消費する裏で、労働者が搾取されていたと知って、人権に対する考えや自分の消費行動をすごく変えた映画になりました。
『
PLAN 75』
監督:早川千絵(2022年、日本/フランス/フィリピン/カタール)
75歳以上が自分の生死を選択できる制度が施行された近未来の日本のお話です。 安楽死をする選択肢を与えられた状況で、自分の倫理観みたいなものに疑問を投げかけられるような映画でした。
『
人間の境界』
監督:アグニエシュカ・ホランド(2023年、ポーランド/フランス/チェコ/ベルギー)
ベラルーシ政府がEUに送る難民を、ポーランド国境警備隊は送り返そうとします。シリア人難民や住民、警備隊、支援活動家、それぞれの視点で同じ物語が描かれていて、何か答えがあるわけではないのですが、現状をどう受け止めるかということを問われた作品でした。
学生応援団・河野はなの3本
『
転校生』
監督:大林宣彦(1982年、日本)
今ではオーソドックスな描き方である “男女の心と体が入れ替わる” という設定を通じ、1982年の時点で性別違和や既存の性役割観について考えさせてくれた映画です。大きな「アイデンティティ」を扱ったエシカル映画だと思います。
『
正欲』
監督/編集:岸善幸(2023年、日本)
「多様性」という大枠の便利さに甘えていました。自分の想像を超えたところに想像を超える数のマイノリティが存在します。ある面から見ればマイノリティである私自身も、むしろ圧倒的マジョリティ側にいることを実感させられました。
『
隔たる世界の2人』
監督:トレイボン・フリー、マーティン・デズモンド・ロー(2020年、アメリカ)
あらゆる差別の現場、加害者は自身にとってずっとその立場にいた被害者の気持ちを慮ることはできません。自分以外の人間には決してなれない人生の中で、「あなたが想像する世界の外にこんな人たちがいます」と伝えてくれるエシカル映画は重要な意味を持つものなのだと改めて気付かされました。
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学生審査委員に市山プログラミング・ディレクターが解説「審査ってこんな感じ」
2024年度の審査委員長は俳優・映画監督である齊藤 工氏、審査委員は東京国際映画祭・学生応援団から選抜された3人が務めます。3人とももちろん、映画祭の審査委員を務めるのは初めてです。審査会に先立ち、海外の映画祭での審査員経験も豊富な市山尚三 東京国際映画祭 プログラミング・ディレクターによるブリーフィングがオンラインで開かれました。
市山プログラミング・ディレクター「お、面白い」が基本
市山プログラミング・ディレクター(以下:
市山PD)は「基本は観て、『お、面白い』と思った映画を選んでいます。特に基準があるわけではないんです」と話し始めました。基準は…ない?少し戸惑った表情の3人です。
市山PD:映画としてよくできている作品もあれば、映画としてはあまりよくできていないけれど、驚くような撮り方だった作品も選びます。完成度が高くて選ぶ映画もあれば、完成度は低いけどこの監督は面白そうだからと選んでいる作品もあります。焼き直しではなく、驚きや新鮮さがある映画を結果的に選んでいます。
審査はそれぞれの価値観
市山PDによると、審査員を務めた映画祭で「こういう視点で審査してくれと言われることはあまりない」とのことです。 基本は審査員それぞれの価値観に委ねられます。
とはいえ演出や撮影といった項目ごとに点数を書く紙が配られる映画祭もあったそうです。
市山PD:演出は5点満点で5点とか、撮影は3点とか、演技は2点とか。でも審査員が誰1人それに書いてなかったんです。
審査委員会では審査委員が「どの作品が賞に値するか」という話をします。誰も言わない作品が選外になり、最後に、どれを選ぶか話し合いが進みます。
市山PD:もちろん項目ごとに点をつけて、総合点でこれが1位と考える人がいてもいいとは思いますが、点をつける必要は特にないです。なぜその映画を推すのかとという理由を話して、議論します。
意見が割れ、最終的に多数決になるケースもあるそうですが「じっくり話し合い、合意するのが審査会としては理想的ではないか」と話しました。
「なぜドキュメンタリー2本?」「前知識は」「基準は」質問
学生応援団:佐々木湧人
学生応援団:縄井 琳
学生応援団:河野はな
審査委員の3人からの質問もありました。佐々木さんは「エシカル賞のノミネート作品を選ぶ上で、 基準があってドキュメンタリーを選んだのか、たまたま選んだ作品がドキュメンタリーだったというところだったのでしょうか」と候補作品の選出について尋ねました。
市山PD:2本とも非常に大きな衝撃と驚きがあった作品なので、その結果、ドキュメンタリー2本になったというような感じですね。
縄井さんは「鑑賞後に監督や映画の背景といった追加情報を得ると、その映画に対する見方がかなり変わることがあります。事前に監督のインタビューなどを見聞きするのはどうでしょうか」と前知識の是非について質問しました。
市山PD:情報として知るのは全然、構わないとは思いますが、研究のために見るということはしない方がいいと思います。審査員によっては一切、前知識を入れないっていう人もいます。
河野さんは「3作品のそれぞれに感銘を受けると思う。選ぶ際には最終的に自分の直感にすべきか、 学生っていう立場によるか、新鮮なものにすればいいのか…。審査基準があったら教えていただきたいです」と基準について尋ねました。
市山PD:エシカル・フィルム賞を出すことで映画をサポートしたいという思いで選べば、直感でもいいと思います。もしかしたらエシカルの専門家であれば全然違う選択をするかもしれませんが、今回は専門家ではない審査委員会ですので、自分の感覚を信じていいんじゃないかなと思いますね。
映画の審査!と肩ひじ張らず、自身の感性で選ぶのが基本のようですね。審査委員長の齊藤工さんと、学生審査委員の化学反応も楽しみです。
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協力: